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ゆうくん、と言っていたが。
ゆう____遊木(ゆうき)真のことだろうか？
たしかに謎の青年は真っ直ぐに、真だけを見つめている。
みょうに熱っぽくて、他に向ける視線とは雲泥(うんでい)の差だ。
この世で最も価値のある宝石を眺めるように、恍惚(こうこつ)としている。
猫のように双眸(そうぼう)を細めて、彼は真にねっとりとした口調で語りかける。
「逃げるなんて酷いじゃん、傷ついちゃうなぁ？」
「げぇ！？ い......泉(いずみ)さん！」
真がすごい勢いで、部屋の最奥(さいおう)まで後ずさった。
泉、というのがこの奇妙な人物の名前なのだろうか。
真の口ぶりには、恐怖と嫌悪しかない。
友達、みたいには見えない。
けれど、真とは顔見知りのようだ。
どういう関係なのだろうか____ひとり蚊帳(かや)の外の真緒は状況がつかめず、困惑するしかない。
泉は感情を読み取れない無表情で、脅すように言った。
「『げぇ』ってなんなの、お化けでも見たような反応だねぇ？ チョ〜うざぁい♪」
むしろ名前を呼んでくれたことが嬉しいのか、泉はにやにやと笑っている。
そのあたりで、ようやく我を取り戻した真緒が____しごく真っ当な注意をした。
「なんなんだ、あんた。この防音練習室は『Trickstar』の貸し切りだぞ、関係者以外は立ち入り禁止！」
「ん〜？ あんたに話しかけてんじゃないんだよねぇ、引っこんでてくれるぅ？」
泉は心底、不愉快そうに眉(まゆ)をひそめる。
「ていうか敬語で喋ってくれないかなぁ、後輩くん。生意気な子は、この夢ノ咲学院じゃ生きていけないよ〜？」
危険な雰囲気を漂(ただよ)わせながら、、彼は悪意しかない口調で吐き捨てた。
「プチって踏みつぶされたいのかなぁ、虫けら♪」
あまりにもあんまりな泉の態度に、基本的に誰に対しても人当たりのいい真緒すら顔をしかめて____こっそりと、真に耳打ちする。
「......おい、真。このひとなんなの、おまえの知りあい？」
「......さっき言ったでしょ、【ちょっと面倒なひと】に絡まれたって」
真緒をやっぱり完全に無視して、泉は奇妙な____這(は)い回るような目つきで、ひたすら真を眺めている。
自分が見られているわけでもないのに、言いしれぬ寒気を覚えて竦(すく)みあがった。
重苦しい空気のなか、真が気丈(きじょう)にも泉の前に立ち塞がった。
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作者名：白銀桜夢 | 作成日時：2018年8月9日 18時
