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「......えっと? まずは先輩が帰ってくるまで待つしかないのか......?」
「み、みたいだね......」
呆然としていた真と真緒だったが、戸惑いながらも平常に戻る。
「忘れ物でもあったのかな?」
「ど〜なんだろうな。そんじゃ、俺は朝霧先輩を探してくるよ。見つけたらすぐ家に送ってく。
ちょっとだけ待っててくれよ、留守番は頼んだぞ?」
「はい、はい。夜道に気をつけてね」
美羽の鞄を持ち、閉められた扉のドアノブを握る真緒。
真はたっぷり走った直後で疲れているのか、一休みしている。
一緒に行きたそうに見えるけれど____誰かが残って、荷物などを見ていないといけないから。
「......んん?」
扉を開いて退室しようとしていた真緒が、声をあげて立ち止まったのだ。
「ゆうくん」
暗闇のなかに、異様に冷え冷えとした眼光が輝いている。
すでに、完全下校時刻を過ぎている。
部屋の外____廊下の照明は落とされていて、真っ暗闇だ。
あるのは、窓の外から、わずかに漏れている月光だけ。
そんな窓と窓の隙間、廊下の壁に背を預けて、誰かが立っていた。
夢ノ咲学院の、制服を着ている。
ネクタイの色は緑色____3年生だとわかる。
高級な、血統書つきの猫のような双眸(そうぼう)。
差しこむ月光と同色の、猫っ毛。
ぞっとするほど綺麗な容貌(ようぼう)で____一瞬、魔物かと思わせられる。
不気味で、妖(あや)しく、非人間的ですらあった。
零も魔物じみているけれど、紳士的で優しかった。
しかし廊下に立つこの不思議な青年には、目を逸(そ)らしたら襲いかかってきそうな危(あや)うさがある。
正体不明の美青年は真緒を完全に無視して____悠然と、我が物顔で室内に踏みこんでくる。
邪魔そうに、真緒をぞんざいに片手で押しのけて。
あまりにも、傍若無人だ。
文句のひとつと言おうかと思うが、一瞬だけ睨(にら)みつけられて、心臓を鷲(わし)づかみにされたように震えあがる。
まるで路傍(ろぼう)の石ころを見るように、彼の視線にはなんの感情も宿っていない。
真緒を押しとける際に触れた手のひらを、不愉快そうにハンカチで拭っている。
この上なく失礼なのだけれど、怒る余裕さえなかった。
真緒は目を白黒させているので、顔見知りではないようだ。
それではなんなのだろう、このひとは......?
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作者名:白銀桜夢 | 作成日時:2018年8月9日 18時