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「わっ。ごめんごめん。気を悪くしたなら謝るよ」
素直に謝罪の言葉を並べる薫。
けれど、なにが彼女を怒らせたのか、それをわかっているのかは定(さだ)かではない。
「お願いだから嫌わないでね？ 美羽ちゃんに嫌われたら、俺、もうこの学院で生きていけないから。
だってこの学院、むさくるしい男しかいない地獄だからね！ そんな夢ノ咲学院に咲いた一輪の花が戻ってきてくれてよかったよ！」
会話を求めるというより、言いたいことを言っているだけだろう。
ただ吹き抜ける、自由な風のようだ。
「あなたも相変わらずね。女好きで、自分の言いたいことだけ話すのは」
手元の作業に集中していた美羽が口を開いた。
「ふふん、まあね♪ そうだ美羽ちゃん、今日、このあと予定空いてる？ デート、行かない？
今日が無理なら、明日でも良いよ。放課後デート♪」
「薫くん」
確実に薫からのナンパを受けていた美羽の後方に、いつの間にか零が立っていた。
美羽は特に驚くしぐさもなく、零のほうへ振り向く。
零は、呆れた様子でぼやいた。
「練習から抜けだして、どこへ行ったのかと思えば......。また女漁(あさ)りかい、飽きんのう。おぬしは、
大概(たいがい)にせいよ？」
薫を、零はあだっぽく眺めている。
闇からにじみでるようにして出現した謎めいた『三奇人』は、ほぼ同じ背丈の薫をまっすぐ見据える。
日が暮れているためか、どうも陽光に弱いらしい零は日中に会ったときよりも気力がみなぎっている。
底知れない、迫力すらあった。
「まぁ、おぬしなら『ぶっつけ本番』でも大丈夫じゃろうがのう？」
「そう、そう。練習なんてテキトーでいいじゃん、楽しくやろうよ！」
途端に一瞬だけ見せていた鬼気(きき)は何だったのだろう____ふんわりとした雰囲気に戻ると、薫は手を叩いて囃(はや)し立てた。
「いつになくやる気になってるよね、朔間さん。俺はそういう暑苦しいノリ、あんまり好きじゃないんだけどな〜？」
細めた目の奥から、這(は)い回るような眼光を向けている。
和やかに会話をしているように見えるけれど、熾烈(しれつ)な腹の探(さぐ)りあいが行われている。
ポケットに手を突っこみ、身を屈めて歩くと____薫は零に肉薄(にくはく)し、真下から睨(ね)めあげる。
悪党が、因縁をつけるみたいに。
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作者名：白銀桜夢 | 作成日時：2018年8月9日 18時
