思い馳せる姫君 (ページ36)

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「氷鷹北斗くん、あなたは周りに気を遣いすぎてるわ。自分を型(かた)に嵌(は)め、周囲に遠慮して、持ち味を出せてない。もっと周りを信用なさい」

「......信用はしているつもりだが...そう見えるということか」

「舞台の上ではアイドルが王であり神よ。もっと傲慢に自分を主張しなさい。遠慮する必要はないわ」

　間近から向き合い、言葉を、心を伝える。

「見せ場を周りに譲り、仲間に危害が及びそうになれば身を挺(てい)して守る。あなたのそんな生き様は美徳でもあるけれど、もっと遮二無二(しゃにむに)になってもいいのよ」

　Aは鉄面皮めいた冷たい表情の北斗の頭を優しく撫でた。

　聖母のような、温かい温もりを伝えるために。

「舞台の上では、己を偽ってはいけないわ。それは、観客に失礼だもの。のびのびと、己の全てを曝(さら)けだして。心を、魂をすべてぶつけなければ、観客には決して響かない」

「......」

　北斗は頭を打たれたように、目を丸くしている。

　初めて、他人と触れあったみたいに。

　Aは痛ましそうに眉をひそめた。

　まるで____誰かと重ねているように。

　そして、彼女は指針を示す。

「すぐには、難しいでしょうね。あなたの欠点は____いいえ、個性は、これまでの生活習慣、家庭環境、そういう魂や人生の深いところに根ざしたもののようだから」

　その指摘に、北斗は項垂れる。

　彼にとってそれは、触れられたくない領域なのだろう。

　彼もスバルも真も、何か特別に重たくて血を流すような悩みを、痛みを、まだ隠している。

「せめて、舞台の上ではその『制限』を外せるように、意識するべきね。北斗くん、あなたはしばらくひなたくんとゆうたくんと一緒に練習しなさい」

　彼女の後ろでキャピキャピと陽気に笑って楽しそうに話しているひなたとゆうたを見やる。

「この子たちは自由奔放、の見本のようなものだから、学ぶところはたくさんあるはずよ。2人もそれで良いかしら？」

「もちろん。俺たちは、こういう真面目ぶつたやつを弄(いじ)って遊ぶのが大好き～☆」

「『俺たち』でまとめないでよ、アニキ。でもまぁ、練習したいのは山々だし。いい刺激になるかもね、よろしく～♪」

　Aの呼びかけに応える、ひなたとゆうた。