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師範が離れていってからも、俺は聴覚へ全ての神経を集中させている。
善逸のどんな小さな音でさえも拾おうと必死だった。
「……
微かな呼吸音が、俺の鼓膜を震わせた。
その音が聞こえた方へ、瞬時に駆け出す。
ときと屋の方から戦っている様な音が聞こえてくる。
荻本屋から少し離れた地中からも、何やら音が聞こえてくる。
けど、今の俺にはそれはただの雑音でしかない。
「ここ……?」
地べたに両膝、両手を付けて直に耳をつけた。
すると、善逸の呼吸音以外にも聞き知った呼吸音が後二つある事に気づいた。
「……まきを、さんと……須磨、さん?」
それに加えて、地中を激しく何かが移動している音。
「もぐらじゃないんだけど……」
そう零して俺は立ち上がり、対の紫紺の刀を構える。
「音の呼吸 壱ノ型、轟っ!!」
何かが移動している音が真下に来た時、俺は地面に向けて刀を振り下ろした。
辺りに爆音が響けば、地面にはぽっかりと穴が開いた。
躊躇うなんてものはなくて、開いた穴へと俺は飛び降りた。
「ぐえっ!」
「
「はぁ?じゃねぇよ!どけコラァ!」
何かを踏みつけた感触と、発せられた怒声に俺は視線を足元へと向けた。
そこにあったのは猪頭。
「……
「ぼあ、じゃねぇっ!伊之助だ!どけって言ってんだよ!むらさきっ!」
猪、基伊之助の背から降りるが、体を起こす気配が微塵もなく俺は片膝を付けてなんとか視線を合わせようと試みる。
視線合わせるって言っても、猪頭の目玉を見るしか方法はないんだけどね。
「何してんの?」
「鬼追いかけてんだよ!」
「…どうやって?」
「あ゙ぁ゙!?関節外して、穴の中通ってだ!」
「……
「だぁぁーーーっ!!!何言ってっかわっかんねぇーーーっ!!」
眉根を寄せてそう問えば、伊之助は異国語が分からないらしくジタバタとのたうち回っていた。
例えじゃなくて、目の当たりにするとは思わなかったよ。
「とにかく!ここに鬼がいる!」
そう言い切った伊之助。
その言葉で、俺は辺りを見回した。
俺の視界に映ったのは、数多の帯だった。
「……これは。」
「人柄の布か?何だこりゃあ。」
「……遊郭で、行方知れずになった遊女たちだよ。」
警戒しながら、俺と伊之助は足を進めた。
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作者名:春月是駒 | 作成日時:2023年6月11日 22時