【歌い手】お願いだから嫌いにさせて

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SIDE:センラ


私服は案外シンプルで、それがなんだかすごく可愛く見えて、口元が緩んでしまう。

「へへ、A、おはよ」

「おはよ、センラ」

「ほな、行こか」

シャキーンと切符を取り出してAに渡す。
うわ……という目で見られていたのは気にしない方向で行こう。

新幹線は結構混んでいて、自由席は俺らで最後。後ろのお兄さんが”あっ”という顔をしていたが。
知らない。遅かったのが悪い。うん。

「ふぅ、疲れた……」

「そやね、新幹線で寝てこか、荷物あげるからちょうだい」

「ん、ありがと」


＊


”「うん。僕だってそうだ。」
カムパネルラの眼にはきれいな涙がうかんでいました……”

……なんか、酔ってきたな。
もうすぐ本の終盤だっていうのに。

酔いが治まったら続き読も。

ちらりとAの方を見た。
すー、と寝息を立てて眠っている。
かわいい。

……そや、今どこだろう。

『……次は……米原……米原……』

次は米原。京都の一つ前の駅だ。

そろそろ起きて降りる準備しないと。

「A、起きてや、もうすぐ着くで」

「ん……お、起きた……。」

「ん、よし。偉い。荷物下ろすから受け取れるか？」

「うん、ちょうだい」

「っしょ、はい」

「ありがと」


切符よし、携帯よし、財布よし、荷物よし。
準備OK。Aも大丈夫そうだ。

『……次は……京都……京都……』


「A、降りるで」

「了解」


新幹線のドアが開き、さぁっと風が吹き込んだ。

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