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「じゃ、いってきます、けど」
「おう、じゃあな」
「……もう！じゃあね！バイバイ！」
そんな別れ方をした俺の初恋は、ふわりと宙に浮いたまま俺の頭の中で今も漂っている。
思い出は美化される、だから多分この気持ちも美化されとるんやろ。
ぶっちゃけ大学生が中学生を好きになるのが犯罪やし、向こうも俺がそんな感情を抱いてるなんて微塵も思ってないやろうし、離れて正解やったんや。
あれから十年近くが経った。だからこの初恋がこんな形で続くとは。
「やから、八年やって。十年も経ってへんわ」
「おっさんからしたら八年も十年も変わらへんねん」
「はー、そうやって年齢マウントとってくるんは全然変わらへんな！」
「……年齢マウントって若い方がするんとちゃうんか」
現在、居酒屋、夜の二十一時。
仕事終わりに最寄り駅でばったり会って、そのまま連れてこられた居酒屋でかつての教え子と呑んでいる。
もう呑める年齢なんか、とか。スーツ似合ってへんな、とか。ちょっと顔つきは大人になったけど、笑うとあの頃のまんまやな、とか。
ただの教え子じゃなかったからこそ、胸がざわついて落ち着かない。
「トントンはね、私の初恋やったんやで？最後はスパッと離れられちゃったけど、あれめっちゃ寂しかった」
「……は？」
「中学生やったし、相手にされてないのもわかっとったし、トントンがそういうの鈍いのもわかってた」
「ま、そら、そうよ」
初恋、その言葉にアルコールが回り出す。
頭の中でふわふわと宙を漂っていた俺の初恋が、急に熱を帯びて存在を主張し始める。
俺はまだここにいるぞ、と。
「でも、トントンのお陰であの後もなんとか勉強頑張って大学進学出来たし、今はそれなりの会社に入社できたよ。ありがとうございます」
「ほー、そうか、おめでとさん」
「なぁ、頭撫でてもええんやで？」
ほらまた、予想の斜め上を飛んでいく。
八年前と同じようにお説教やな、と俺が口を開くより先にAに言われた言葉で、ついに理性が飛んでしまった。
「これ、今までトントンにしか言ってへん。誉めて欲しい人、トントンだけやから」
はにかむAの頭にそっと手を乗せれば、きっとここは八年前のAの部屋になるだろう。
タイムスリップした二人の空間で、あの日の続きを知りたいと思った。
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