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｢は､初恋って､ゾムさん本気ですか…?｣
｢本気も何も事実や｣
食堂にはもう俺達しかいない｡
昨日Aと訓練場まで一緒に行こうと誘った手前､このままダラダラと訓練の時間までここで過ごすのは避けたいから､大先生に手伝ってやるとパンを奪って食べる｡
僕のパン!と嘆くけど食べるより喋る事を優先したのが悪い｡
｢って事は､初めて同士って訳か｣
｢良いですね｣
｢は?Aは初恋やないで｡どこか知らん男を好きになって失恋したんやと｡Aを好きにならんとか有り得へんわ絶対まともな男やないわ｡付き合わなくて正解やな｣
｢うわ……Aちゃんの初恋の男めっちゃ文句言われとんで…理不尽に｣
俺の初めて好きになった人はAなのに､Aの初めては俺じゃない｡
付き合えてないしそれ以降も好きになった人はいないと言っていたが､俺は俺の前に1人いるだけで胸が焼け焦げそうな程醜い嫉妬をしてるのに｡
昨日､告白した｡それだけで付き合えた訳では無い｡
それでも俺は初めてが俺だったら良かったのにと知りもしない昔の男を恨んでいる｡
｢確かに初恋は奪われてますけど､初めて付き合った人にはなれるんちゃいます?｣
｢俺は全部の初めてが欲しかってん!｣
｢逆ギレや｡エーミールのフォローなんて全く効いてへん｣
｢初恋までの苦さまで教えんでええわ…｡俺は『恋なんて知らないよ…』っていう先生を期待してたんに!なんで知っとんねん!｣
ダンッと両手で強く机に叩くと､ガシャンと食器が音を鳴らす｡大先生とエーミールはそれにひょえ…と情けない声を漏らした｡
｢ま､まぁゾムは頑張りや｡初恋は実らないってよぉ言うし､その通りにならんようにな｣
｢は?実らすに決まっとるやろ｡死んでも離さへんし殺してでも手に入れたるわ｣
｢初恋の重量キャパオーバーしとるでそれ?!｣
｢Aさんの生死が心配になるわ…｣
小声で何やら話している2人を置いて､そろそろAの元へ行こうかと立ち上がる｡大先生は急いでご飯をかきこみ､エーミールはそれを自分もそろそろ…と席を立つ｡
今日から男として意識してもらうよう､昨日寝る前に考えた策略を実行するぞ!と意気込み､俺は食堂から出ていく｡
｢ゾムの初恋は実りそうやけどな｣
｢先の話ですが､付き合った報告されるのが楽しみですね｣
食堂に残った2人がそんな話をしていた事も露知らず､1か月後に付き合えた報告をして遅すぎやわ!と言われたのは後の出来事である｡
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