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村は人気がなかった。
がらんとした家々。Aがいつも言っていたような活気ある商店街も、夜になると提灯に灯りがともるという穴場の露地も、ない。
天乃は風の音すら聞こえない、生の気配のない村が恐ろしかった。気を紛らわせようと、彼女の名前を大声で叫ぶ。
「A」
どこかから、ちいさくはいと声がした。
びくりと天乃は背筋をふるわせる。慌てて近くの家の扉を片端から開け、何度もAを呼ぶ。どの家にもやはり人の姿はなくて、それどころか家具やら衣服やらも見当たらず、およそ人の生活している場所とは到底思えなかった。
曲がりくねった道に沿って歩くうち、天乃はとりわけ大きく古めかしい家を見とめた。
門をがらりと開ける。
「A？」
「はい」
今度こそ、はっきりと聞こえた。彼女はこの家の奥にいる。
「あなたが、天乃さんなのですか」
か細いながらうつくしく透き通る声が、天乃の耳朶を優しく打った。
*
「きてくださったのですね」
天乃は戸惑っていた。
Aは、奥の座敷に正座をして天乃を待っていた。思っていたより大人びていて、年は十五、六といったところだろうか。
祭事装束の様な重たそうな服を着込み、目に紅をさしたAは凛として重厚な美しさを持っていたけれど、この異様に静かな村のようすと相まってなにか恐ろしいもののように天乃の目には映った。
「うそつき、と咎めて頂いてもかまいません──わたしの記してきた温かく活気ある集落は、すべて幻想ですから」
Aはまず、単刀直入にそう切り出した。
「……どう、して…この村はこんなに、」
「どうして、ですか」
天乃の問いに、愚問だとでも言うようにAは苦情をうかべた。
「この村はひどい干ばつなのです」
「……あ、」
「あなたは水神様ですね？」
呆然としたまま、こくりとひとつ、頷く。
「どうして、この村に雨を降らして下さらなかったのです」
「それ、は」
「おかげで彼らは一人残らず隣町へ逃げ、ちょうど十五の歳だったわたしはこうして村へ残され水神様への生贄となりました。……逃げた彼らと共に、村の和紙はすべて持っていかれてしまいましたわ」
天乃はろくに回らない頭で、自分が雨を降らさなくなった時期と、彼女からの文が滞るようになった時期が重なっていることを思い出した。
Aはやけに淡々と話し続けていて、それがまた天乃には怖いのだ。
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