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早く帰ろう。こんなゆっくり歩いていては、終電を逃してしまいそう。
＿＿＿＿＿＿＿それに。
アルコールのせいで緩んだ口から、こころの奥底に押し込められた思いが溢れ出てしまいそうだった。私のほうが好きなのに、と思ってみたところで、彼女さんを見たことも、その思いの丈を聞いたこともないのだから比べようがない。笑う顔が好き。緩められる眼元が優しくて、好き。面倒だとか、なんだかんだ言いながら付き合ってくれるとこが好き。困ったら助けてくれるし、ほら、車道側を自然に歩いてくれるとこも好き。落ち込むたびに缶コーヒーくれるから、苦いの苦手だったのに好きになっちゃったんだよ……、なぁんて。どれだけ心の中で呟いてみたところで、彼に伝わることはないんだけどさ。
『……ここまででいいよ。駅すぐそこだし』
「そう？」
『うん、ありがと。また、月曜日』
「おう、また月曜日」
ひらひら、振り返される手に光るものを見つけて、気分が悪くなる。胃の奥から込み上げてくるものを必死に飲み込んで、改札をくぐった。初恋は叶わない。そんなことを言い出したのは誰なんだろう。調べる元気もなければ、そもそもそんなに興味がなくて、瞼を閉じた。
……初恋、だったのになあ。
二十数年生きてきて、初めて抱いた恋心は、実に呆気なく散った。仕方がないことだとは思っても、やっぱり辛い。でも、伝えられるわけないじゃんか。普通、なんて言いながら、すっごく幸せな顔で笑われたら。馬鹿でも分かるよ、自分の入る隙間がないこと。だから、伝えてこの心地良い関係を壊すことより、今まで通り同僚として隣にいることを選ぶ。ずるいかな、ずるくないよね。そんなことを考えて、少し笑う。
ずるくても、ずるくなくても、それを選ぶことを決めたのだから。大きく息を吐き出して、誰もいないホームを振り返った。
『さようなら、私の初恋』
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