アディショナルタイム-ht- ページ11
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ゆらゆら、よたよた。真っ直ぐ歩けない私が、標識にぶつかって頭を下げたのを見て、隣を歩いていた同僚が笑った。
『……笑い過ぎ……』
「ふは、ふ、だって、はは……っ」
標識に謝ったのが、そんなにツボに入ったのか。なかなか笑い止まない彼をじとり、睨みつける。花の金曜日。明日は土曜日、何時まで寝ていても怒られない日！だから、今夜はチューハイをたくさん買って、洋画でも借りて夜更かしを＿＿＿＿＿＿＿＿と、思っていたのに。飲みに行こうと言う上司の誘いを断るわけにも行かず、あれよあれよとこんな時間まで飲み続けていた私はべろべろだ。
『もう、ひとらんが笑うから歩きたくない！』
「うわでた、めんどくさい酔っ払い」
『じゃあ笑わないでー！』
拗ねてますよとばかりに唇を尖らせてみれば、彼は呆れたような笑みを浮かべるから。今度は、なんでそんな顔をするのとむくれたくなった。そんなことしたら、本当に面倒だと帰ってしまいそうだから、しないけど。唇を尖らせたまま、駅までの道を歩く。終電まで、あと少し。「こんな時間に、女がひとりで歩くなんて危ない」なんて言いながら、送ることもタクシーを呼んでくれることもしてくれない上司に曖昧な笑みを浮かべていた私の手を取ってくれたのは、ひとらんだった。俺が送るよと、私を見下ろして笑った彼を思い出して、心臓が痛くなる。
『……ひとらん、最近彼女と上手くいってる？』
「え？まぁ、普通だけど」
『普通かぁ……それっていいこと？』
「いいことじゃない？分かんないけど」
……いいなぁ。ぽつり、溢れた言葉に、彼が眼を瞬かせる。突然何を、と私に向けられた視線が宙へと逸らされて、哀れみになって戻って来た。
「彼氏出来たことないんだもんね」
『そうだけど、その眼やめてぇ』
からから、静かな夜道に笑い声が響く。唇を尖らせていた私も、つられて笑い声を溢した。酔っ払いのツボは浅いんだ。全然面白くないけど、ひとらんが笑ってくれるのが嬉しくて笑った。いいなぁ、彼女さんは。こんな人と付き合えるなんて。笑って、滲む視界はアルコールのせいにして、真っ直ぐ進んでくれない足を無理矢理前へと踏み出した。
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