【89】過去、涙 ページ39
Aside
屋台は並び、提灯は夜の町を照らし、月の輝く空には大きな花火が上がっている。
それなのに、誰もいない。
寂しさに俯くと、一冊の古びた日記が目の前に落ちている。見覚えのある日記に僕は手を伸ばし、日記を拾い上げて砂を払うとページをめくった。
僕が小学校の頃の日記だった。
ドラマの真似事で四年生の頃から六年生までの間につけていたもの。
全く覚えていない内容。しかし文字を見れば、未来を楽しみに待ち、ワクワクと字を綴ったことは分かった。
内容も、とても幸せなものだった。
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6月29日
今日は誕生日。
誕生日にお兄ちゃんから届いた図書カードで、
初めての日記帳を買った。
何を書こうか。まだわからない。
お兄ちゃんありがとう。
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7月3日
書きたいことが決まった。
自分のやりたいこと。なりたいもの。
叶えたいことを書くことにしよう。
やりたいこと
・沢山の写真が撮りたい
・沢山の人と歌いたい
・沢山の人を笑顔にしたい、感動させたい。
この頃から揺るがない思い。
・歌手になる←決定事項!!
・役者になりたい
この頃の僕は、溢れる宝石のように輝いていた。
でもいつの間にか蓋をし心にしまいこんで、古びて忘れてしまっていた。
でも、今は__
顔を上げた瞬間。
「おかあさん…おとう、さん…?」
そこは、葬式場だった。
辺りにはこそこそと話す大人。
「かわいそうに…どうするのよ、あの子達」
「俺のとこは、四人いるからなぁ…」
「まぁ、将暉は大きいし…大丈夫よ」
「でもまだ十五歳よ!!」
「じゃあ引き取ってやれよ」
「そ、それは…」
チラチラと向けられる目線の先には幼い僕。
棺に入った父と母は
肌は青白く、ピクリとも動かない。
そして、屋根に打ち付ける涙雨。
それは、残された自分たちの心のようだった。
「おきてよ…」
泣きじゃくる僕の元に、セレモニースタッフさんがしゃがみ、背中をゆっくり摩る。
「パパとママは、お空で、見てくれてるよ。」
優しく微笑むスタッフさんは、母達の周りに咲く、共花の様。幼い僕は、スタッフさんに言った。
「おそらぼくもいく!!」
そう、笑う僕に、「お空は神様の許しがないと行けないんだ」と、お兄ちゃんが言った。
ごめんね…にいちゃん。
辛いはずなのに。
不安と、悲しみで溢れているはずなのに。
「…死にたく、ないな」
兄は、そう口からこぼした。
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雨音(プロフ) - 柊さん» ありがとうございます!がんばります!! (2020年2月22日 22時) (レス) id: 36e1edc774 (このIDを非表示/違反報告)
柊 - とっても面白いです!応援してます! (2020年2月22日 19時) (レス) id: 6c7d5f5114 (このIDを非表示/違反報告)
雨音(プロフ) - らんさん» 運命ですね。 (2020年2月9日 21時) (レス) id: 36e1edc774 (このIDを非表示/違反報告)
らん - 私の学校に 加藤 晴也 って名前の人いる! (2020年2月9日 18時) (レス) id: 665c5b97f1 (このIDを非表示/違反報告)
雨音(プロフ) - 蒔さん» ご拝読ありがとうございます!頑張ります!! (2020年1月21日 14時) (レス) id: 36e1edc774 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雨音 x他1人 | 作成日時:2019年12月27日 16時