〜第一章〜 海 【歌い手】 2

【86】…ん？ ページ36

『で、どうですかね…』

「待って、オーケストラじゃなくね？」



そうだ。
書いた歌詞は結果、授業中に思いついたものと全く別の物。


『いや…なんか、混ざり合うと言ったらオーケストラだなぁって思っていたらこうなってしまって…』

｢どんな変換だよ…笑｣



まふさんは気づくかも、と思いながら歌詞を渡す。

この歌詞に込めたのは「初恋」の記憶だ。
大人になり忘れかけた純な愛を思い出すようなストーリー。

そこに込められた七つのカクテルが大人になって増えた感性のような…。

自分でも上手くは説明できないけれど、
描きたかったのはこんな感じだ。




「なるほど、カクテルの言葉か。」

「言われてみれば確かに…苦いオレンジ色の世界を探す旅って所を初恋って読み解いたら、カンパリオレンジから来てるのか。…他はわかんねーけど。」



『カンパリオレンジ の初恋を、
[苦いオレンジ色の世界を探す旅 ]

ジンライム の色褪せぬ恋を、
[布に包まれているのはいつかの高揚]


スクリュードライバー は直訳で

[曲線描く、人生の舵 ]

ギムレット の遠い人を思うを、
[遠くへ、想い。海を]

マルガリータ の涙を乗り越えてを、
[海を渡る]

アメリカンレモネードの忘れないを

[BARに染み付く檸檬の香り]


コペンハーゲンの秘密の愛を
[胸に閉じ込めた幼い赤い頬]


メモ見て言ったので順番はバラバラなんですけど…』




追いつきたかった。大人の世界に、心に。


程遠い世界なのに、憧れていて、
自分で何も出来ないのが嫌で。


…でも、きっと追いつくには遠すぎる。


今回曲を書いて感じたことは
自分はまだまだ底辺で、いつになっても追いつけない壁が絶対あるという消失感だった。



『ちょ、ちょっとお手洗い…』




その場にいたら、何故か涙がこぼれそうで、僕は逃げ出した。

こんな顔を顔を、こんな沢山の人の前で見せたら迷惑以外の何者でもない。



「ピースさっきトイレ行ってましたよね？」



kradnessさんの声が聞こえるのを無視して、
トイレに逃げた。




…涙は、零れる。

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