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そらは自分自身を落ち着けるように
そっと息をつくと項を掻いた。
「……言ったじゃん、俺。
Aが他の誰かを想ってても、
それでも構わないって」
私は小さく頷く。
そらがゆっくりと距離を詰めてきた。
「だけど私は」
俯いて言いかけたが、
足元に二つの靴が見えて、言葉を切る。
目線を上げると目の前に彼が立っていた。
儚く、切なげな表情で。
「！」
次の瞬間には抱き締められていた。
優しく、でも力強く。
頬にかかる彼の髪がくすぐったい。
「そら……」
私は慌ててその胸板を押すけれど
彼は抗うように一向に離そうとしない。
「好き」
耳元で聞こえる言葉。
それが、ぎゅうっと胸を締め付ける。
「……離して……」
そんな小さな抵抗は意味を成さない。
でもそれ以上に突き放せない。
苦しくて苦しくて。
彼の気持ちは、痛いほど分かるから。
好きなのに、届かない。
その気持ちは。
泣きそうなほど、分かるから。
「やだ、離さない。離したくない」
振りほどかなきゃいけないのに。
切実過ぎて、涙がこぼれる。
「ごめん……！」
言うと、ゆるりと腕を解いて
そのまま逃げるように講義室を出る。
ふらりと行くあてもなく早足で歩いていると
「あ、」と小さな声が聞こえて思わず立ち止まった。
(エイちゃん……)
彼は私の顔を見るやいなや、
驚いたように目を見開いた。
「何、泣いてんの」
「泣いてない……！」
目元と頬を拭ってみても
また、頬を涙が伝う。
エイジの顔を見たせいで、
さっきの心の痛みが顕現した。
今すぐ抱き締めたい。
今すぐ想いを伝えたい。
そんな衝動を叶えることも出来ず
手で口元を抑え、必死に嗚咽を堪えながら
ただ、咽び泣いた。
「ちょ……っ」
エイジの狼狽するような声が聞こえる。
いつの間にか周りの注目を集めていたようで
でも泣き止むことなんて出来なかった。
「あー、もう。 とりあえず、逃げよ」
エイジはそう言ったと同時に私の手を取り
人の間を縫って歩き出した。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2017年7月26日 20時
