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今日の講義をすべて終えて、門の前でスマホを取り出した。
終わったよー
と、エイジにLINEを送ると直ぐに既読がついた。
エイジレポート出しに行くからちょっと待ってて
分かった、と送る代わりに既読をつけてスマホをしまった。
時間を潰すためにカフェテリアに寄って何か買おうかな、なんて歩き出したとき、正面からこちらへ向かってきていた人と目が合った。
どくん、と心臓が鳴る。
「Aじゃん！」
と、そらは人懐こい笑顔を浮かべた。
幸いあの子の姿はなく、彼は一人だった。
「そら。 今、帰り？」
なるべく普段通りを装って空元気を出す。
浮かべた笑顔が不自然になってないといいな。
「そうだよ。 Aも？」
うん、と微笑んで頷く。
つくづく、この人の纏っている空気は和やかで、胸の内を渦巻くネガティブを忘れさせてくれる。
でも、今はその目に捉えられるたび苦しくなった。
ぜんぶなかったことにして、私だけを見てくれたら良いのに。
彼の心を真っ白に戻せたなら、私色に染めていけるのに。
叶わぬ願いだと分かっていても、もどかしさは消化出来ない。
「一緒に帰る？」
思いがけない言葉に思考を遮られ、勢いよく顔を上げた。
彼は何もかもいつも通りだ。
昨日の涙の理由を深く尋ねてこない優しさに救われた。
でも。
「ごめん」
何も考えずにその言葉がこぼれ落ちた。
前までの私なら何の躊躇もなく頷いただろうに。
「今日はエイジと、約束があって」
言うとそらは驚いたように目を見開く。
まさか私が断るなんて思わなかったよね。
私も思わなかった。
「……そうなの」
そらは笑ってそう言ったけれど、その声は衝撃が隠せていないような調子だった。
このまま、じゃあねなんて別れられる空気でもなくなって、私はどぎまぎしながら話題を探す。
「あ、あの子とは、どんな感じなの？」
……私の馬鹿。
そんなこと聞いたって自分が傷つくだけなのに。
いくら沈黙に耐えられなくたってよりによってその話題じゃなくても良いのに。
「あの子？」
「言ってなかった？
何か、良い感じの子がいるって」
止めておけば良いものを、聞きたくないのに知りたくて、切り上げられなかった。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2020年2月15日 8時
