#72 ページ23
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私はそらのことが好きで、それは確かだから。
でももう、正直よく分からない。
昨晩から私の『好き』に自信が持てない。
自分が好きな人にとって都合の良い存在でしかなかったと判明して、夢から覚めたような気持ちだ。
「考え事？」
そう尋ねられ、ハッと我に返った。
「え、あ……うん」
曖昧に頷いたとき、不意に手を取られる。
そのまま彼の手に包まれた。
「！」
やっぱり、この温もりだ。
昨日のそらとの記憶を上書きされるような。
そらに頭を撫でられ、手を繋いだときは勿論ドキドキした。
でも、エイジに同じ二つのことをされたとき、まったく新しい感情が芽生えた。
ヒビだらけで空洞だらけの心の隙間から、煌々と光があふれ出すような、眩しくてあたたかい気持ち。
そう……あたたかくて、安心する。
それこそ私が彼を求める理由の1つだと思う。
「今日は、余計なこと考えなくていいから」
一切目を逸らすことなく告げられる。
耐えられなくて、私は視線を落とした。
「……うん」
言われなくても、もうとっくに今日は彼に心を奪われている。
階段から落ちそうになったのを抱きとめてくれて、靴を履かせてくれたとき、恥ずかしいけど彼を王子様みたいだと思った。
それからまだ、心音は止まない。
*
「あー、面白かった」
映画館を出て言うと、彼は苦笑した。
「それホラー映画見終わって言う台詞？」
私が見たかった映画というのは海外のとあるホラー映画だった。
彼の言葉に小さく笑って続ける。
「あの殺人鬼も格好良かったよね」
「そこはビビれよー」
私はもともとホラー映画は好きな方で、スプラッターものも全然平気だ。
とはいえ一緒にいるのがエイジじゃなければ、怖がって彼の腕に掴まったりするかな。
と、一人で考えていたところでエイジが訊いてきた。
「どっか寄る？」
「あ、そうだね。 小腹空いちゃった」
「俺も」
そういうわけなので、近くのカフェに入ることにした。
オープンテラス席に座ってメニューを眺める。
がっつりご飯を食べるには少し遅い時間帯だ。
パンケーキが人気のお店らしいので、私も彼もそれを注文することにした。
店員が去って訪れる沈黙。
この場を漂う空気に急かされているような気がする。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2020年2月15日 8時
