#29 ページ29
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私と陸くんが教室に入ると
明日香は既に自分の席に座っていた。
ふと、目が合ったけれど
彼女はすぐに逸らして突っ伏す。
……もともと避けては、通れなかった。
私が陸くんの“隣”を望んだ瞬間から
こうなることは容易に想像出来た筈。
逃げちゃ、駄目だ。
*
休み時間、私は彼女のもとへ向かった。
近くで見ると、随分と目が充血していて
昨晩どれだけ泣いたのか簡単に想像出来る。
泣き腫らした目で私を見た彼女は
弱々しく笑って見せた。
「……知ってるかもしれないけど
私、陸くんと別れたんだ……」
そう言う声は小さく掠れてしまっている。
「うん……」
相槌を打ち、彼女の話に耳を傾ける。
「本当はさ、気付いてたんだー。
陸くんが私のこと何とも思ってないの」
言葉を重ねるたび、彼女の目には涙が浮かぶ。
「でも、それでもいいと思ってた。
私のことを見てくれなくても、
隣にいられるのならそれでいいって……」
声が震え始める。
伏せた睫毛に涙の粒が光っていた。
「実際はそんなことなかったのにね。
想われずに傍にいることが
どれだけ辛いか─────」
明日香は涙を呑むと震える声で続ける。
「だって、
好きな人が他の誰かを想ってる姿を
一番近くで見ることになるんだから」
軽く唇を噛む彼女。
「私、陸くんの優しさに甘えてた。
その優しさに漬け込んで、
そのせいで二人を傷つけちゃったよ……」
教室の中に響き渡る騒がしい声なんて
嘘みたいに聞こえない。
彼女の言葉だけが耳に深く浸透していく。
「だからもう、
Aは自分の気持ち誤魔化さないで」
明日香の表情は凛々しかった。
それに釣られ、自然と私の頬も引き締まる。
「私のせいで、
二人の仲を……一時でも壊してごめん」
そんなふうに頭を下げられたが
そんな資格は私にはない。
「謝らないで……！
それを言うなら私の方だよ」
私も唇を噛み締める。
─────付き合っていると知ったうえで
“友だち”を超えられないと知ったうえで
『その先』を、『隣』を、
一瞬でも望んでしまったこと──────
「ごめん、なさい」
いくら親友と言えども
本来なら絶対に許される筈がないのに。
私の行い、抱いた思い、
それをぜんぶ打ち明けても
「いいの」
彼女は笑って、そう許してくれた。
「本音でぶつかり合えて嬉しかったから」
その言葉に、
あぁ……と思う─────。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2017年7月1日 18時
