後日談 #01 ページ46
.
あの雨の日から数週間が経った。
「そらちぃとデート!?
よかったじゃーん！」
紗奈は私の肩をつんつんとつつき、
にまにまと笑う。
いつの間にか、
彼女は『そらちぃ』呼びに戻っていた。
未練がある─────
紗奈はそう言っていたけれど、
最近はそんな素振りは見せない。
私とそらが付き合い始めたあの日から
何だか悪いことをしているみたいで
背徳感のような、
後ろめたさがまとわりついて
紗奈と普通に接することが出来なかった。
彼女の前では極力、
そらの話は控えていたのだが
不自然過ぎたのか、逆に怒られてしまった。
「私さ」
少し目を伏せて彼女は話し始めた。
「絶対別れたくない、って思ってたんだよ。
でも……そう思ってた筈だったのに、
Aがそらちぃと付き合うことになって
何か……“よかった”って
思ってる自分がいるの。
心からお似合いだと思ってるし
幸せになって欲しいと思ってる」
言ってから、
えへへ、と照れたように笑った彼女。
その笑顔は、
まるで雨降りの後の水たまりが
太陽の光に反射しているみたいに、
きらきらとしていて綺麗だった。
彼女は、吹っ切れたよ、と付け足す。
「ありがとう……」
何て言うのが正解なのか分からなかった。
けれど、私は咄嗟にそう言って笑う。
すると紗奈もにっこりと微笑んでくれて
心がじんわりとあたたかくなった。
*
デートの約束をした当日。
家を出る寸前に、スマホが震えた。
そらあの靴履いてきちゃ駄目だからね!
そんなメッセージに思わず小さく笑う。
彼の言う“あの靴”とは
大学にも数度履いていった、
アンクルストラップ付きの厚底の靴。
それを履いていた日は、
そらは拗ねたようにむすっとしていた。
それが愛しいくらい可愛くて、
だから、それ目当てで
わざと履いていったこともある。
その靴を彼が嫌う理由は─────。
*
履いてかないよ!
履いて行かない、とは言ったものの……。
「履いて行っちゃおーっと」
悪戯心を抑える気はない。
私は履いていた靴を脱ぎ、
彼の嫌う“あの靴”を履いて、家を出た。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 217人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2017年3月26日 7時
