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そのとき部屋の扉が開いて「ありがとねー」と、そらくんが入ってきた。
いえいえ、って笑おうと思ったのに、エイジくんの言葉のせいで頬が強張る。
うさんくさい? ……私が?
どくんどくん、と心臓がさらに早鐘を打つ。
『あ、エイちゃん起きてんじゃん』
『……おー』
エイジくんが間延びした返事をする。
さっきの会話なんてまるで気にしていない様子。
と、そらくんがスマホで時間を確認した。
『帰ろっか』
後片付けを手伝うと申し出てくれたが、私はそれを丁重に断った。
帰り支度を終えた二人を玄関まで見送る。
『急だったのに、本当にありがとう』
そらくんは再度お礼を言ってくれた。
私は小さく笑って首を横に振る。
ちらりとエイジくんを見ると、彼は意味ありげな笑みを浮かべた。
『……じゃあ、また!』
同じ大学ということも分かったので、社交辞令的な別れ際の挨拶をする。
エイジくんの視線から逃れるように、ぺこりと頭を下げた。
『またね』
と、そらくん。
歩いていく二人の背を途中まで見送り、ドアを閉めた。
扉に背を預け、息をつく。
『“でも、それがうさんくさい”』
まさか、そんなことを言われるとは思わなかった。
今まで上手くやって来たのに。
彼の言葉を借りるなら、本当の私は絶対に“そら好みの女の子”ではない。
そんな女の子を演じているだけだ。
気配り上手とか、性格が良さそう、とか、そんなのはすべて計算でしていたことだった。
好感が与えられるならそれで良かったし、いつだって損をすることはなかった。
ファッションだって髪型だってメイクだって、ふわふわと可愛い雰囲気のものを選ぶようにしていた。
計算の上に成り立った“可愛さ”のおかげで、私を好いてくれる男子だって少なくなかった。
今まで上手くいっていた。
それなのに、初対面のあいつに見破られるなんて。
記憶の端で赤い髪が揺れるたび、私の心が尖った。
苛立ちを感じるのは、どうしてだろう。
あの赤髪が体裁に騙されなかったからだろうか。
的確に、本性を見抜かれたからだろうか。
舌打ちしてやりたいのをぐっと堪えた。
いないと分かっていても、あいつにはぜんぶ見られている気がして。
刺々しい感情のままに、空き缶をビニール袋に乱暴に放り込んでいった。
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2019年9月28日 19時