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「もちろん、いじめる側は皆屑だけど」
陸くんはそう付け加えて扉の方へ向かう。
そこで立ち止まり、振り向いた。
「事情は分かった。 話してくれてありがと」
と、彼は静かに部屋を出て行った。
また厨房での出来事が脳裏に蘇った。
彼は私を調理台に押し付け、私の口を塞ぎ、身体に触れた。
思い出しただけで心音が加速する。
「……！」
不意に、私はとんでもない事実に思い至った。
慌てて立ち上がると、部屋を飛び出し、厨房に向かった。
厨房に辿り着くと、天井に取り付けられた監視カメラを見上げる。
赤いランプが点滅している。
きっと、向こうの“奴ら”には私のことが見えている。
私はカメラから目を逸らさないまま、じりじりと距離を詰めた。
慎重に……閃きの正しさを、あるいは間違いを、この目で確かめるつもりだった。
ふと、背後で物音がして振り向くと、ポキくんが立っていた。
昼前と似た構図だった。
彼の腕の力強さや息づかいが生々しく蘇り、反射的に身を縮める。
彼は慌てた表情になって、自分の首にさっと手をやった。
「俺、これ……」
首輪に触れ、厨房の中を見回す彼。
その様子に、私は彼が気づいていることに気づいた。
数分後、自分でも信じられないことだけど私は昼前とまったく同じ場所にポキくんと並んで立ち、調理台にもたれていた。
「気づいたんだ？」
抑えた声で尋ねる。
でも実際は確認するまでもなかった。
「俺、何も考えずにあんなの────」
私は、許すとも許さないとも言わなかった。
ただ、事実の確認だけをする。
「あれって違反だよね？ ルール違反」
最初のテレビ画面の文言を思い出す。
“他人に危害を加えてはいけません”。
「ポキくんは私に暴力を振るった。
押さえつけて、口を塞いだり。
……でも、首輪は反応しなかった」
彼は隣で、厨房にある唯一の監視カメラを見上げる。
「死角なんだ。
たぶんここ、カメラには映ってない」
彼は小声で言った。
それはまさに私が考えたことだった。
「犯人は気づいてない……」
私は付け加えた。
ポキくんは頷き、私の言葉に同意する。
私はポキくんの横顔を見上げた。
とても弱くて、でも今はそのことを反省しているようにも見える。
信用出来るだろうか。
分からない。
分からないけれど、どのみち私一人では何も出来ない。
これは賭けだ。
「ねぇ」
意を決して、言った。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2019年8月15日 23時
