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「だ、大丈夫……」

喉がカラカラだった。

違和感を覚えて目元を拭うと手の甲が少しだけ濡れた。
いつの間にか泣いていたのだ。

「何?」

陸くんが駆け込んできた。
彼の姿を見たあーずーは少し躊躇ったように私を見た。

陸くんが男の子だから、あーずーは気を遣ってくれているのだ。

でも、先ほどの光景が蘇ったのか、怒りを含んだ口調で荒々しく言う。

「ポッキーがA襲ってた」

「襲ってた、っていうか……」

「襲ってたじゃん!」

「ちょっとびっくりした、けど……」

喉の奥が苦しい。途切れ途切れにしか話せない。

さっきの行動は強引過ぎる。彼らしくない。
きっとこの場所のせいだ。そう思った。

いつ死ぬか分からない。
どうせ死ぬなら、と考え捨て鉢な行動に出たのかもしれない。

それに私は彼に負い目がある。
そのことをはっきりと伝えた。

だから彼は、それなら私は拒まないかも、と考えたのかもしれない。

「私はないと思うけど、Aもあの子ももっと気を付けないと」

あの子、はさぁやちゃんを指しているのだろう。

また私や、あるいはさぁやちゃんが襲われるのではないかと彼女は心配しているのだ。

「大げさだよ……」

「全然大げさじゃないから!
もし今、私が来なかったらどうなってたか分かる?」

もし、あーずーが来てくれなかったら。

私一人の力では敵わなかった。
息も出来なくなっていた。
もし、来てくれなかったら……。

「注意は、した方がいいね」

陸くんが噛み締めるように言った。



*



あーずーは怒っていた。
たぶんそれは私たちをこんな状況に巻き込んだ誘拐犯たちへの怒り。

でもそれを相手に直接ぶつける方法がない。
逆らうと首輪が締まり、私たちは死んでしまう。

だからその矛先は、“彼ら”に向いた。

「信じらんない」

怒りを通り越して呆れたような口調であーずーが言う。

私たちは廊下にある簡易的なソファーの所に集まっていた。

私たち、といっても全員じゃない。
私と彼女と陸くん、そしてはじめくんとさぁやちゃん。

彼女が独断と偏見で声をかけた人たち。

今は、さぁやちゃんから衝撃的な告白を聞かされたばかりだ。

“私もやられた────”という。



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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2019年8月15日 23時

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