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♢
「Aちゃんの手には、エイジの制服のボタンが握られてた」
彼女の右手に光っていたものはそれだった。
昨夜、Aが部屋を出て行く間際に渡しておいたもの。
きっとゲームが終わったら二度と会うことはないだろうから、ちょっとした友情の証のつもりだったが、Aにとってはそうではなかったみたいだ。
いや、そうだったかもしれないが……俺を守るために利用したのだ。 物的証拠として。
小豆が“エイジの”と言い切ったのは、ここにいる他の面々はそのようなボタンがついた制服を着ていないから。
狂人2人は別としても。
カンタが身につけているのはネクタイを締めたシャツにカーディガン。
ブレザーは羽織っていない。
「……しかも、頭には殴られたような傷もある」
屋上から見たAの姿を思い出す。
確かに彼女は頭から血を流していた。
「Aちゃんが言ってた。
“私が殺されるときは、絶対に人狼が誰か分かるようにして死ぬ”って」
いつの間にそんなことを……。
だったら、Aは既に死ぬことは覚悟の上だったのか？
自分の死さえも利用してやろうと考えていたのか？
『狂ったように自分で死んでったよ』
カンタの言葉が蘇った。
彼女は自ら、自身の頭に殴られた痕跡を作った。
そのうえ突き落とされたのではなく、自分の意思で飛び降りたのか。
「……人狼は殺すとき、建物や死体に変化を加えてはいけないはず」
カンタが小さく言った。
「だから？」
ポッキーが続きを促す。
「襲撃先に証拠を残すことは出来ない」
「……」
脳裏に、金色に光を放つボタンがちらついた。
Aの右手に握られたボタン。
彼女の頭から流れていた鮮やかな赤色と混ざり合う。
頭の中で映像を浮かべる。
深夜、ナイフを片手にAの部屋を訪れて────。
「……いきなり、あいつに掴まれた」
想像を言葉にして発することで具象化していく。
「はぁ？」
カンタが顔を顰めたが、構わず話し続ける。
「距離が近くて、揉み合う感じになって……。
髪を引っ張られたからとにかくナイフを振り回したら、たまたま頭を殴る形になった」
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2020年6月30日 17時
