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目を見張るカンタ。
悔しそうに目に涙を溜めて睨みつけてくる。
「違う……」
「怯んだ隙にまた殴った。
殴って殴って、殴り続けて……たくさん血が出てきた」
小豆はそれを想像してか、眉を顰めて視線を逸らした。
ポッキーは硬い表情で黙って話を聞いていた。
「気付いたら窓から突き落としてた」
俺の想像の世界の中にいるAが、開け放たれた窓から落ちていった。
「そのときに、ボタンを引きちぎられた」
「……違う」
カンタが同じ言葉を繰り返した。
昨晩の真実は、彼しか知らない。
彼だけが知っている真実なんて、彼以外の人間にとっては証拠も何もない以上、無価値も同然だ。
「違う……!」
それでもカンタは叫び続けた。
表情を歪め、今にも泣き出しそうに。
対照的に、俺は冷静に言い放つ。
「俺が意図的に変化を加えたわけじゃない。
だから、ルール違反にはなってない」
……つくづく、Aは強いと思った。
最後の最後まで、自分の命と引き換えに俺を守ってくれた。
自分で頭を殴ったのも、窓から飛び降りたのも、衝動的な行動ではないだろう。
彼女はきっと決めていたんだ。
自分が襲撃先に選ばれたときの死に方を。
少なくとも、俺に細工を施したナイフを渡してきた時点では既に。
いや、小豆にああ言ったときにはもう、最悪の結末を想定していた可能性はある。
「……」
撲殺の痕跡があるナイフを俺に預け、自分は頭に殴られたような傷を負った。
窓から飛び降り、死ぬ間際に俺の制服のボタンを握り締めた。
“外”には誰も出られないからだ。 人狼も。
だから飛び降りる必要があった。
それらすべての“証拠”を、人狼に消されないために。
「投票」
俺は短く言った。
カンタが何か言おうとしたが、結局口を噤んで、一筋涙をこぼした。
「3、2、1!」
声を張る。 腕を上げ、カンタを指した。
ポッキーと小豆もカンタに指先を向けていた。
カンタは納得いかない、と言いたげな表情で俺に投票している。
そして全員の指先を確認すると、脱力して目を閉じた。
俺は深く息を吸い込んだ。 淀んだ空気が肺に満ちる。
それから唇を噛み締め、カンタを見据えた。
ふっ、とカンタが目を開け、俺を睨みつけた。
かと思うと、言葉にならない叫び声を上げて勢いよく立ち上がる。
「お前に何が分かる!?
自分の手を汚してないお前に!!」
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2020年6月30日 17時