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「お前が恋人?」

マホトの声は掠れていた。

そうであってくれと願っているのだろうがそれはハズレだ。



「どうかな」

はじめは答える。

それから天井隅の監視カメラを見上げた。

「俺がなんて答えようと襲撃先は変えられない。……それがルール」

マホトはじりじりと距離を詰める。

「お前、他に何知ってんの?」

はじめは儚げな笑みから泣きそうな表情になった。

「教えろよ」

「……わかった。
けど別にここじゃなくてもいいでしょ?
最後に、何か飲みたい」

「知らねぇよ」

マホトは彼にナイフの切っ先を向けた。

「待って」

私が言うと、マホトがナイフを持つ手を下ろしながら私の方を振り返った。

「話聞かせてよ」

言うと、はじめは、こくりと小さく頷く。



「……AA。
お前のことはよく知ってる」

唐突なはじめの言葉。

少なくともこのゲームが始まるまでは面識はなかった筈だけど。

「お前は俺と同じ……。 裏切られて、ここにいる」

裏切られて?
その言葉が心に引っかかった。



*



はじめはペットボトル入りの水を手にこの建物の正面出入口の、両開きのガラス扉の中央に立った。

扉は全開。

彼は中と外の境界線にいる。

一歩前へ踏み出せば、死ぬ位置。

私ははじめの斜め後ろに立った。

マホトも私の隣に立ち、油断なくナイフを構えている。



「裏切られて、ってどういうこと?」

私は彼に尋ねた。

彼は振り向くことなく答える。

「このゲームに選ばれた理由。
基本は、拉致しやすい相手とか、活躍が期待出来そうな相手が選ばれる」

あとは────、とはじめは続けた。

「特別に“イケニエ”っていうシステムもある」

「イケニエ……?」

マホトが聞き返した。

少なくともこの場所では初めて耳にする言葉だ。

はじめは「そう」と頷く。

「このゲームは非合法な賭けの対象。
賭ける側は完全紹介制。入会金は1億円。
賭け金も高額。
負けがかさんで賭け金を払えなくなった人の為のシステム」

と、そこで初めて彼が振り向いた。

「自分の友だちや家族を、このゲームの参加者として差し出す。
……そうすれば一定額の賭け金が貰える」



「それが、イケニエ……」

マホトは隣で渋い顔になった。

「俺も情けないよね」

はじめは自嘲気味に笑う。

「一緒に賭けて遊んでた友達に裏切られて
イケニエに差し出された」

「ねえ……、ちょっと……」

思わず話を割った。

灰色の雷雲が膨らむみたいに、胸の奥に嫌な感覚が広がり始めた。



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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2018年3月10日 16時

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