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思い切り振りかぶる。

「やめ、やめて……っ!」

そらの懇願する表情が真下に見える。

しかし私は動きを止めない。

無意味な叫びと共に、力強くナイフを振り下ろした。



「ぅ、ああっ!!」

そらが苦しげな声を上げる。

ザクッという感覚が手に伝わってきた。

てつやを殺したときとはまた違う感覚。

エイジやはじめが戦いたようにその光景を見ていた。

私は構わず振り下ろす。

何度も。何度も何度も。

彼のカッターシャツが真っ赤に染まろうとも、彼が大量に吐血しようとも。

硬い手応えがなくなるまで、私は機械的にずっと、そらを刺し続けた。



*



その後は、どうなったんだったか。

気付けば私は深夜の食堂にいた。

テーブルの上には鞘におさめたナイフ。



ああ、そうだ。

絶命していることにも気づかなかった私をマホトが止めに入って、何人かはそらの遺体を彼の部屋に運び、何人かは床に飛び散った血を拭っていた。

私は息を切らせながらその光景を見ていた。



そして、今は襲撃の時間。

外は雨が降っている。

雨音だけが静寂を支配していた。

「……」

私は左手首にはめた腕時計をそっと指先で撫でてみた。

これは─────

『ありがとう……。 おとうさん』

私の新しい父親が誕生日にくれたものだった。

父親が─────。



「A」



いつの間に現れたのか、マホトに名を呼ばれ、思い出に浸る時間は終わった。

「……どうする?」

私はゆっくりと首を巡らせ、マホトに問う。

「誰にする?」

心做しか雨脚が強くなった。

「それとも────私を殺す?」



マホトは剥き出しのサバイバルナイフを右手に提げ、私の傍らに立っていた。

「決めた」

とだけ、短く言う。

「今夜恋人を殺せば……もう全部終わる」

彼は、誰を選ぶのだろうか。

もしも襲撃相手がエイジならば、私はこいつを殺さなければいけない。



*



結果として、私が自分のナイフを鞘から出すことはなかった。

彼はエイジではない人物を選んだのだ。

私にとっては唯一の相手……はじめ。



ガチャ、と扉を開け中に入るマホト。

はじめは窓の外を眺めていた。

私たちの姿を認めると「そっか……」と弱々しく笑った。

「俺はまた賭けに負けたのか……」

その通りだ。

彼はそらとリクヲが人狼であることに賭けた。

そして負けた。

そらへの評価が彼の判断を曇らせたのかもしれない。



「……なぁ」

マホトが自信なさげにはじめに声をかけた。



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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2018年3月10日 16時

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