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#25 ページ25

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「……そんな簡単に諦めたくないんだよ」



鞄を持つ手に力が込もる。

(エイジ……)

彼の想いは嬉しかった。

でも同時に悲しかった。

「……っ」

唇を噛み締めて俯く。



─ガララッ

教室の扉が静かに開いた。

私は咄嗟に顔を背ける。

(見つかりませんように!)

「……ぅっ……」

背後から聞こえたのはそんな小さな嗚咽。

「!」

(泣いてる……?)

そろりと振り返ると、出てきたその子は

手で目元を押さえている。

彼女は私に気付くことなく

廊下を走り去って行った。



「何してんの?」

「うわっ」

いきなり頭上から声が降ってきて

私は驚いて肩を揺らした。

「盗み聞き? 趣味悪〜」

「違うし!
忘れ物取りに来たらたまたま……」

「ふぅーん」

エイジは にやにやと笑いながら

私を見下ろしている。



私はそんな彼を無視して

教室の中へと足を踏み入れた。

……ほんの一瞬でも

こんなふうに以前のように話せたことが

凄く嬉しかったけれど、黙っておいた。

自分に寄せられた好意を

拒むっていうのは勇気がいる。

気丈に振る舞っているエイジだって本当は

あの子に投影して傷ついているかも……。



「……」

机の中から忘れ物を回収して

鞄を肩に掛け直した。

(はっきり言わなくちゃ)

この先、エイジがどれだけ私を想ってくれても

私の気持ちが揺らぐことはない。

────そう、言わないと。



「あのさ、私─────」

「あー、はいはい。 ……分かってるよ」

エイジが笑みをこぼす。

さっきのそれとは全然違って

儚げに散ってしまいそうだった。

「言われなくても
俺に気がないっていうのは、最初から」

分かっている、と。

「ごめん……」

「謝ることじゃないから」

エイジは笑っているけれど

無理しているんじゃないか、と

少し不安になったりした。



「ていうか、帰んないの?」

エイジが鞄を持ち直して言う。

「帰る」

「じゃあ、早く帰ろ」

どこまでも普段通りの彼に私は頷いた。



「……良かった、またAと帰れて」

珍しく素直なエイジに驚く。

「……今、ちょっとドキッとした?」

にやりと口角を上げた彼に

「するわけないでしょ、ばか」

私はそんなふうに言い返した。



少しずつ、だけど、

自然と芽生えてしまった心の壁が

崩れていっているような気がする。

“友だち”に戻れそうでちょっと嬉しかった。



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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2017年11月25日 1時

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