#35 ページ35
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─Side S─
たった今、俺はAに振られた。
勿論、ショックじゃないなんて言えば
それは嘘になる。
でも……
思ったよりも傷が深くないのは
一体何故だろう。
好きになってから日が浅いから？
最初から無理だと覚悟していたから？
それとも本当に
俺の想いは『偽物』だった……？
『待っ……』
彼女は何故か、歩き去るエイちゃんを引き止めた。
─────引き止めかけた。
それがずっと心に引っ掛かっていた。
ひょっとすると、
それがすべての答えなのかもしれない。
「……」
俺のわがままで傷つけた千夏の顔が
ふいに頭に浮かんだ。
それと共に、
二人で作り上げてきた時間が
フラッシュバックする。
“────別れよう”
そう告げた瞬間の彼女の表情が
感情を、心を、大きく揺さぶった。
「“好き”に本物も偽物もない」
俺の言葉を繰り返すAの声で
ハッと意識が現実に引き戻った。
「でも、例えそうでも
誰だって迷うことはあると思う」
誰かと誰かの間で揺れることも
決して、想いが“偽物”だからじゃない。
─────そう、彼女は続けた。
……きっと、
今この瞬間に抱いているのが
自分の本当に正直な気持ち。
「そら」
俺は黙って彼女の方へ視線を向けた。
「私も、自分に正直になろうと思う」
すべてを察した。悟った。
彼女の心に誰がいるのか、
それさえもすべてを。
「……うん、Aなら大丈夫」
嘘偽りのない本心からの言葉。
僻みでも妬みでも嫌みでもなく、
思ったことをそのまま口にした。
そしたら、何だか、
重々しく濁っていた心がすぅっと軽くなった。
吹いてくる風が
ぜんぶ攫って行ってくれたみたいに。
「まだ間に合うかな……」
俺は小さく呟いた。
「……うん、彼女もきっと待ってる」
Aはどこまでも穏やかに
ふわりと優しく笑ってくれた。
*
振られたのに、
告白さえ嘘だったんじゃないかと
ただの夢だったんじゃないかと
思ってしまうくらい、お互いの心は晴れていた。
「また明日。 頑張ってね」
「うん、そっちも」
そう言って別れ、それぞれの想いを胸に
帰路についたのだった─────。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2017年11月25日 1時
