sideT. 28-2 ページ34
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7月に入って柊生はとうとうプロポーズしたらしく、サエコの左手の薬指には指輪が光る。
サエコは幸せだってのを体全部で表現して、そんなサエコを見る柊生も幸せだって顔してて、……そんな2人を見て鬱陶しいと思う俺は、相当卑屈になってるらしい。
それでも「おめでとう」って言葉はマジでそう思っての言葉で、その部分に関してだけは卑屈になってる訳じゃない。
ただ幸せそうなサエコを見て、俺もAにこんな顔させたいのになって思う気持ちが空回りなのが悔しいだけ。
「ねぇ、草川君」
「ん？」
朝っぱらから幸せ満点のサエコは、照れ臭さだか気恥ずかしさだかでさっさと前を歩いて行く柊生に聞こえないように小声で話し掛けてくる。
「明々後日のお昼、何か用事ある？」
「……特に」
「ちょっと相談に乗って欲しい事があるからお昼一緒に食べない？」
「いいけど」
「でも柊生君には内緒で！」
「内緒？」
「あ、変な事じゃないから大丈夫！」
「……分かった」
よく分からないその誘いに、多少面倒臭いとは思っても、サエコの妙に真剣なその表情にそう返事するしかなかった。
柊生に内緒だって言った時点で、その内容が柊生の事だってのは分かる。
「俺、あっちだから」
朝一の講義を受ける校舎が柊生達とは違う俺は、2人に「またな」って言ってさっさと講義のある校舎に歩き出す。
その校舎に向かいながらもすれ違う奴らに目を向けてしまうのは、無意識にもAを探してる証拠。
キスまでしてる間柄なのに、Aの事をあんまり知らない。
受けてる講義のスケジュールすら知らねーし、家も知らない。
知ってるのは名前と携帯番号とメールアドレス。
……それと酒癖が悪いって事だけ。
Aの事を考えれば考える程、俺に希望はないと思ってしまう。
つい先日まであった自信が、"佑亮"が現れた所為で消え失せた。
どうしようもない現状に八方塞な気持ちになった俺の携帯が、2時間目の阿部教授の授業中に鳴った。
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作者名：ピカ
| 作成日時：2016年6月16日 0時
