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「Aちゃん、火傷してない!?」
「ごめ、ごめんなさいっ」
「……落ち着けよ」
あたしの心配をして駆け寄ってくれるサエコさんと、零れた珈琲を手でどうにかしようとするあたしと……そんなあたし達を呆れた顔で見ながらテーブルにあったティッシュを引っ張る草川先輩。
ティッシュを床に置いた草川先輩は、自分の傍まで転がってきた珈琲カップを掴んで、割れてないかチェックする。
「手。一応冷やして来い」
そう言ってキッチンの方を指差す草川先輩の目はあたしに向けられてて──…それでも何故かここを離ちゃいけないと思った。
だって床を拭いてるサエコさんと草川先輩を2人きりにしちゃいけない気がする。
2人きりになると草川先輩が色々考えて悶々とする気がする。
「いい。大丈夫」
だからそう言った。
そう言うしかなかった。
ちょっと手がジンジンするけど、こんなのすぐに治まるはず。
あたしの手よりも草川先輩の心の方が心配で……でもこれって本当に大きなお世話なんだって分かってる。
ほんの少しの間だけでも、サエコさんと2人きりになりたいって思ってるのも分かってる。
だけどやっぱりあたしには、その後を考えるとこうするしか思い付かなかった。
「大丈夫じゃねーよ。冷やして来い」
「いいってば」
「赤くなってんだろ」
「元々赤かったってば」
あからさまな嘘を口にするあたしを、草川先輩はこれでもかって睨み付けて、
「Aちゃん！冷やしに行こう！」
ある程度床を拭き終わったサエコさんが、あたしの手を掴んでキッチンに走っていく。
リビングを出る直前、
「草川君！救急箱出してて！」
振り返ってそう言ったサエコさんの言葉に「はいよ」って小さく返事した草川先輩は、救急箱がある場所を知ってるらしい。
それくらいしょっちゅう、この家に来てるらしい。
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作者名：ピカ
| 作成日時：2016年6月1日 15時
