百五十一話 キスは混乱のもと ページ4
ト「君は突然麦畑の真ん中に現れて、出会った時もただでさえ不思議だったのに...
今度は記憶を失うなんてね」
トムがどこか悲しそうにぽつりと呟く。
グウェンにかしてもらっている部屋の窓から繋がるベランダ。
二階のここからは、赤レンガの可愛らしい家々が立ち並ぶ、この街を見渡せた。
『私もよくわかってないの。何か...大切なことを忘れてる気がして』
この世界にやって来てから、もう数十日が経つ。
友人達とも楽しい日々を送っているのだが、何かが心に引っかかる。
ただ、意外にもこのトム・リドルは、私の知っていた彼とは別人のように違っていた。
この赤い瞳には、邪悪な心ではなく、優しさが映っているのだ。
それを感じてから、私はすっかりトムとも打ち解けていた。
トムとの握られた手から、温もりが伝わってくる。
記憶もなにもなく、目隠しをされているような状態で不安な私にとって、
彼は心の支えとなってくれていた。
おかしな話だ。少し前まで、あんなに軽蔑し、嫌っていた彼を、
今は一人の友人、親友として見てしまっているのだから。
ト「エマ」
トムが私の名前を呼んだ。
雲のむこうを見つめていた私は、隣にいるトムの方に振り向く。
驚きのあまり、目を見開いた。
トムの唇が、私の唇と重なっている。
長く深いキスに、私が慌てて離れると、銀糸がぷつんと途切れた。
『――――っ、トム？』
ト「...っごめん、エマ...僕は悪い子だ。君の記憶がないからって、君は別の人のモノなのに」
トムがそう言って悲しく微笑む。
『別の人のものって...？』
ト「君は、フィリップの婚約者だ」
『私が、フィリップの...？』
私が聞き返すと、トムがゆっくりと頷く。
ト「混乱させたな...ごめん」
本当に、何がなんだかさっぱりだ。トムは私に好意を持ってくれていて...
私はフィリップと婚約している。
『私ちょっと...フィリップと会ってくる。何がなんだか、わかってなくて』
トムに聞けばすべてを話してくれるのだろうが、トムの悲しそうな笑みを、
これ以上は見ていられなかった。
ト「あぁ...うん」
ベランダを去ろうとして、足を止め、少し戻って顔を除かせる。
トムが不思議そうな顔でこちらを見た。
『キス、上手なのね』
それだけ言って微笑むと、私はベランダを後にした。
まだ心臓がうるさいなんて、秘密の話だ。
突然キスされて、そんなのあたり前だろう。
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花吹雪 - 最初「蛇の呪いの目」を読んだんですけど、まさかこれに繋がってるとは…… (2018年2月25日 22時) (
レス) id: 0d387c6cdc (このIDを非表示/違反報告)
masyu - 一気読みしました......凄く切ない......素敵なお話でした！今から次のお話も読ませていただきます！応援してます！ (2018年1月7日 20時) (レス) id: 065dd9adad (このIDを非表示/違反報告)
ユイ(プロフ) - とても面白かったです！とても幸せそうだけれどほんとは悲しい物語で最後泣いちゃいました(´；ω；｀) (2017年12月23日 7時) (レス) id: c37e0e7b77 (このIDを非表示/違反報告)
暖（受験生）(プロフ) - おぉー！一気に読んでしまいました！とても面白かったです^^完結おめでとうございます！面白かったです^^ (2016年12月27日 2時) (レス) id: 1ca1a708f4 (このIDを非表示/違反報告)
漆 かよ(プロフ) - 素晴らしいお話でした！長くなってしまい申し訳ありません。こんなに感動したのは初めてで、言葉にしきれません…。短編集も閲覧させて頂いたのですが、もう素晴らしいしか言えません！！長文失礼しました。オチはフレッドに一票でお願いします(*´∀`) (2016年12月21日 0時) (レス) id: c34cbcce1b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：イレイ | 作成日時：2016年4月19日 0時
