両片思いⅡ【Fischer's】 (ページ18)

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No.63 潮の香りに置いていかれて⑨ ページ18

Silk side

＿＿＿＿やってしまった。

砂浜に1人取り残された俺は、ただ何となく夜空の紺色と月が映った海を眺めることしかできない。

まだ唇にはさっきの感触が残っていて、それを感じる度に数分前のAの泣き顔がフラッシュバックする。

そして、最後に俺に見せたいかにも無理矢理作ったような笑顔も。

シ「俺すげー最低な事した……」

今更言ってももう遅いことはわかってる。流石にあんなことされて、確実にAは嫌いになっただろう。

今まで好かれてるのが嫌だったなんてことはないが、何故好きになってくれてるのか不思議だった。でもそのくせ、嫌われたかもしれないと思えばすごく嫌で、元に戻りたいと強く思う。そんな俺はすごく我儘だ。

“……ねぇ、私がシルクのこと好きなの、これだけやってもまだ伝わってない……？”

そんなのとっくに知ってたはずだ。あいつが俺の事をずっと一途に想ってくれた事も、一生懸命俺を振り向かせようと頑張ってくれてた事も。

＿＿＿＿そんな環境に浸ってたんかな、俺……。

俺の事を好きでいてくれる人が近くにいて、それを真っ直ぐ表現してくれて、そんな状態に幸せを感じてたのだろうか。

Aが俺を想ってくれてた事を利用して、優越感に浸っていたのだろうか。

シ「っは……、俺マジで最低じゃねぇかよ…」

自嘲じみた嘲笑を口元に浮かべ、自分の馬鹿さ加減に呆れて頭を搔く。

明日、朝会ったらすぐにもう一度謝ろう。そう心に決めて、空を見上げる。さっきまで明るく輝いていた月は雲に半分ほど隠れ、俺を見下ろしていた。

立ち上がってズボンの砂を払うと、潮風が頬を撫でる。潮の香りと共に、どこかへ。

俺は潮の香りに置いていかれて。きっとAの気持ちも遠ざかっていく。

俺を一人、置いていく。

--------ｷﾘﾄﾘ線--------

どーも、作者のらいあです！

“潮の香りに置いていかれて”はこれにて完結となります。

この回はA様とシルクの進展とともに、少し亀裂が入ってしまうという複雑なお話でした…。

この『両片思い』のゴールを決めた時に真っ先に思いついた話なので、つい細かく書きたくて長くなってしまいました！

いつもご愛読してくださってる皆様に少しだけ次回以降の予告を。

シルクとA様のこれからと、この2人に恋するアノ人達にご注目!!

少し恋模様が複雑に絡まってくる頃合いですかね…!?

とまぁちょこっとだけ予告でした。

それでは次回もお楽しみに。