水槽に迷い込んだ貴女Ⅱ【Fischer's】【短編集】 (ページ29)

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『ただいま』ザカオ×恋人ページ29

ザカオside

“私もザカオみたいになりたい”

そう言って昔付き合っていた彼女に一方的に別れを告げられた。当時の俺には何故急にそんなことを言うのか、皆目見当もつかなかった。

当然俺も理由を尋ねた。そう簡単に手放す気にはならなかったし、大好きな彼女だったから。

彼女は別れ話とは思えないほどあっさりと、無邪気な笑顔で去っていった。

＿＿＿＿あれから5年。あの言葉は俺の脳内にこびりついて今でも残っている。

そして今でもその意味は、“ザカオみたいに”がなんなのかは、わかっていない。

彼女がいない、隣が空白の5年間はとてつもなく退屈だった。勿論俺はまだ彼女を愛していて、彼女もまたそうであることを願いたい。

＿＿＿＿とある日、その日はダンスの大会があって、会場に着いた時にはもう人がわんさかと。

時はあっという間に過ぎていく。受付をし、着替えて頭の中で最終確認。俺の出番も順調に進み、最後までキメきることが出来た。

ザ「ぁ、あれ……、あのコどっかで……？」

俺も観客に混じってその後のダンスを眺めていれば、キャップを逆に被った可愛らしい女の子がキレッキレに踊っていた。

彼女も自分の番が終わると俺と同じように観客に混じる。別のダンサーから「超上手かったね！ダンサー歴何年？」と聞かれてあたふたしている姿はまるで＿＿＿

『えと…5年、です』

まるで＿＿＿＿＿

『彼氏がダンサーで憧れちゃって。この大会が終わったら会いに行こうと思ってます』

＿＿＿＿＿Aのように思えて。

『もう覚えてないかもですけどね笑』

忘れるわけがない。ずっと、ずっと覚えてた。Aのことを考えなかった日はなかった。早く、会いたい。早く抱きしめたい。

ザ「あの……！」

人混みをかき分けて彼女の元へ行くと、俺はすぐに声をかけた。

ザ「A……？Aだろ…？やっと、やっと帰ってきた…」

『……ふふっ。ザカオ、ただいま』

ザ「遅せぇよ……どんだけ待ってたと…！」

『ごめんね？でもザカオみたいな格好良いダンサーになったでしょ？』

5年前のAはダンスなんて全くの未経験者、おまけに筋力もなくて身体も弱かった。

『もっと良い、ザカオ好みの女の子になったでしょ？』

ザ「お前なら今も昔も俺好みだよ……」

俺は彼女をギュッと抱きしめて髪を撫でる。

『えへへ。ざか、愛してる』

ザ「俺も愛してる」

俺達は誰にも見られないような場所に移動して、そっと優しく唇を重ねた。