嘘から生まれたボク Ⅰ (ページ31)

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玉森side

一｢玉森さん、今からって何か仕事入ってます？｣

玉｢いや、今日はもうないですけど｣

一｢良かった、頼み事があって｣

一条さんは胸ポケットをごそごそと漁り始めた。

一｢これ、池端のスマホなんですが

稽古場に届けてやってくれませんか？

少々仕事が立て込んでまして……｣

玉｢あらら、いいっすよー｣

一｢ありがとうございます｣

どうやらAは

一条さんにスマホを預けたまま

そのまま稽古に行っちゃったらしい。

珍しく一条さんが話しかけてくるから何事かと思った。

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どんっ！どんっ！

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激しい足音がする。

中をちらっと覗くと

A以外に人はいなくて

アクションシーンなのに

一人で稽古をしているAがいた。

台本はもう見なくても完璧なのか、一切開かない。

カバンから出てすらいない。

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激しく飛び散る汗

青い炎が宿ったような真剣な目

指の先までしなやかに動く体

透き通る綺麗な声

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まだ稽古段階なのに

俺はもう既に、目を奪われていた。

玉｢なんだよ…

やっぱりAが本気を出したら俺らなんて…｣

…俺らなんて、足元にも及ばない。

Aの魅力は

歌声でもダンスでも演技力でもない。

存在そのものだ。

存在自体が輝きを放ってる。

どんなに必死にやったって

きっと俺らじゃAには叶わない。

悔しさを感じさせないほどの圧倒的な差。

これが、Aの実力なんだろう。

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池｢はぁ、はぁ……玉？｣

玉｢…よっ｣

俺に気付いたAは稽古を中断した。

Aにゆっくり近寄って

さっき買ったばかりの冷えた水をAに渡した。

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