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「逃げてる?…なんで?」
「大体の人間は、孤独よりも先に愛を受け取るんだ。
母親からの愛、父親からの愛、なんてものがね。
そのあとに、孤独を思い知らされて、恐怖を味わう。愛を知っているからこそ、孤独を認知することができる。
それを知っているからこそ、むしろひとりでいることを選ぶひとが多いんじゃないかな。
愛という、帰るべき場所があるから、安心して孤独の味を楽しめるんだよ。」
愛を細かく言及しないからこそ、この言葉は重みを持っているのだろう。
親、兄弟、恋人、家、仕事、趣味…
愛は形を帯びない。
ひとによって、何が愛なのか、何を愛とするのかは変わってくる。
「だから愛を正義と仮定しても、孤独はきっと悪ではない。
孤独が多すぎると人間は崩れてしまうけど、愛も多すぎると、頭がいっぱいになっちゃうから、孤独はスパイスとしてうまく活用できたらいいんだけどな。
それができないから、ひとはいつの時代も試行錯誤してきたんだろうけど。」
相変わらず、持論を語るときのAは言葉を噛み砕くということをしないので、彼の言いたいことをすべて理解できたわけではなかった。
「うーん、よく分からへんけどさぁ。
愛の対義語なんてあらへんよ。嘘も、金も、偽善も、なんかどれもしっくりこーへんし。
人間の根っこにあるのが愛なんやったとしたら、反対の悪はあったらあかん。
愛っていう、生物の塊みたいな存在を否定するもんがあったら、ひどいもん。」
感情論なんかもしらん。
でもAは、それでも良いと言った。
思考の質よりも、思考をすることが大事だから。
「そうだね。仮にあったとしても、その言葉は的を射ていないよ、きっと。
愛するという権利は全生物が持っていて、それは何に対しても、誰に対しても、与えられるものなんだから。
それを外野がとやかく言うことは、少しばかり行儀がなってないよね。
誰が誰を愛そうと、勝手なのに」
やはりAは哀しそうな目をした。
この会話を通してAが何を伝えたかったのか、すべてを汲み取ることはなかなか至難の業だ。
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作者名:ひるた | 作成日時:2023年1月28日 1時