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「ごめんなさい、須貝さん」
謝ればいいって問題じゃないことくらい分かってる。
でも、私にできることは他に思いつかなくて。
頑張ったかどうかに答えるのも違う気がして。
謝ることしかできなかった。
「ごめん、謝って欲しい訳じゃなかったのに」
眉尻を下げてそう言う須貝さん。
その後はまた沈黙の時間が流れる。
ただ歩みは止めず、所々にあるイルミネーションが視界の端を過ぎって行く。
「あれぇ、須貝さんじゃないですか」
前からきた二人の女性の方に声をかけられ足取りを止められる。
その女性の隣にいたのは、幾度となく目で追った大好きな人だった。
「ああ、どうも」
なんとなく察するに、伊沢さんの彼女さんだろう。
今はデート中なのだろう。
嫌だなぁ、そんなところ見たくなかった。
「隣の方は?」
「会社の学生バイトさん」
「へぇ」
胸まである茶色い髪の毛を緩く巻いたその女性は、私のことを舐めるように上から下まで見回した。
なんだろう、すごく見下されている感じがする。
「ねぇ拓司、この子がAちゃん?」
「そうだけど…」
彼女さんは今まで黙って居づらそうにしていた伊沢さんに聞いた。
ゾッとした。何で私の名前を知っているのだろう。
「なんだ、もっと可愛い子かと思ってた。Aちゃん、拓司のこと好きなんでしょ?よくそのナリで拓司のこと好きとか言えたよね。本当身の程を弁えろとはこのことね。須貝さんも、こんな女と歩いてたら自分の格が下がるから気をつけた方が良いわ」
ボロくそ言われ、かなり傷ついた。
馬鹿なことを考えないと、私はここで泣いてしまうと思い、彼女のことを初音ミクの激唱と呼ぼうかとか考える。
「お前本当変わらねぇな。昔の性格悪いまま。お前なんかよりよっぽどAちゃんのが可愛いわ。あと、余計なお世話だからもう二度と俺らに口出しすんじゃねぇ」
すると伊沢さんが彼女さんに注意をする前に須貝さんが間髪入れず、そう言った。
そしてそのまま私の腕を引き、その場を早足で立ち去る。
私より20cmも高いその背中を追う。
いつもは道化師のようにおどけている須貝さんが、今は周りの光も相まって頭に冠を乗せた王子様に見えた。
どうしよう、かっこいい。
単純な私はその瞬間、恋に落ちた。
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更新出来てなくてすみません💦
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作者名:ヱ崎 | 作成日時:2022年11月1日 16時