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「祥彰くん、お風呂入る?」

大分伸びきった髪をタオルで拭きながら、彼に声をかける。
祥彰くんはソファに座ってテレビを見ていた。

「うん、入る」

彼は立ち上がると、重いそれを引きずって浴室へ向かった。
やり過ぎだと思うこともあるが、こうでもしないと私の気が済まないのだ。
浴室まで伸びるその鎖を撫でる。
逃げないで欲しくて、ずっと私の傍にいて欲しくて。
馬鹿な女だと思われるかもしれない。
でも友達でも恋人でもない彼が好きで好きで堪らなくて。
どうしようもなく彼を愛しているのだ。
そんなことを考えていたら頭がおかしくなりそうで、私はドライヤーのスイッチを入れた。

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お風呂から上がってきたほかほかとした彼。
濡れて下りた髪が丸い目を隠していて、かっこよく見える。
身長の低い彼は可愛いと思うことの方が圧倒的に多いが、それでも男の子だ。かっこいい。

「Aちゃん、隣いい?」

見蕩れている私を他所に、祥彰くんは私の隣に腰掛ける。
ベッドに二人。テレビも何も付いていない静かな部屋に、静かに響いたリップ音。始まりの合図。

雄の顔をした彼が啄むように私の唇を奪う。
輪郭に手を添えられて、指先で耳を撫でられる。
そしてそのまま押し倒された。

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「Aちゃん、愛してる」

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これも私たちの一つの都合。
求めて、求められて。
心の中の寂しさを埋める。

私の中での彼はあまりに大きい。
彼がいるから私がいる。
彼の為なら何だって。
世界で誰よりも愛してる。

これが私の存在理由。

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「祥彰くん、愛してる」

時々彼女が言うその台詞。
本気か嘘かも分からないそれに、僕は嬉しくなってしまう。
誰からも必要とされない僕が、愛してると言われることがどれほど大きなことか。
それに比べたら、この足に付いた枷なんてどうでもいい。
彼女に愛されているなら、何だっていい。

恋人という関係ではない僕たちの愛は少し歪んでるのかもしれない。
普通の恋人なら二人で働いて二人で協力して生活していくんだろうけど、僕たちは自分の都合で生きている。
だから僕は働かないし、彼女の言いつけ通りずっと家にいる。
けど、愛されたいという大きな目的が達成されているのだから、それでいいのではないかと僕は思う。
恋人とかいう、“好き”を理由に一緒にいる人たちなんかよりずっと賢いと思う。

これでいい。
一生一緒にいられるのなら。
僕は彼女を愛している。
彼女も僕を愛している。

これが僕の存在理由。

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クラウン -sgi-→←レゾンデートル -ymmt-



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作者名:ヱ崎 | 作成日時:2022年11月1日 16時

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