5 ページ5
「
含まれる意味と言葉が大きく矛盾したそれは残酷な合図。
それまで異様な程静かに待機していた怪物が、視界が回復しきらないイレイザーヘッドに牙を剥く。
怪物は真正面から手を伸ばし、死柄木が崩した肘ごと腕を豆腐が如く握り潰した。
その音は決してやわらかい物を潰したそれではない。
「ぐあっ！！」
ヒーローが痛みで鮮明になる視界に捉えたのはおぞましいばけものだ。
個性が発動するより速く引き倒され、怪物はその背を跨いで構える。
残った腕も軽く潰してもがく頭を打ち付ける。
コンクリートは砕けて頭を中心に陥没した。
その怪物は、名を「脳無」。
死柄木弔の指示に従う、対平和の象徴用の改人である。
同じように死柄木に従う、対平和の象徴用に拾われたAは、己がお膳立てした結果で今にも死にそうなヒーローを、変わらぬ無表情のまま無感動に眺めていた。
否、その心はわずかだが確かに揺らいだ。
それも当然だ。
なぜならAは現実に目の前で人が死んだ経験がない。
以前生きていた世界では幸運にも、身近に不幸があったことすらないのだから。
ひとがしぬ。
それも、己が関与して。
この世界に落ちて、意味も気力も亡くして死にかけていたAを拾ってくれたのは「先生」だ。
拾ってくれただけでなく、この世界の常識に知識を与えて貰った恩もある。
が、それ以上の「傷」も貰った。
故にAは自損の痛みを忘れ、心はゆっくりと止まっていった。
その心が小さく叫ぶ。
──殺したくない。
「死柄木弔」
心臓が跳ねた。
Aの待機していたすぐ隣に突如現れた黒い霧状の浮遊物、黒霧が言葉を発する。
この場所へヴィラン連合を運んだ「ワープゲート」の個性を持つ男だ。
つい先程までここからも見える施設の入り口で戦闘をしたいたように見えていたが、何故戻ってきたのだろうか。
どくりどくり、と、最近はついぞ感じていなかった心臓の音が焦燥を如実に伝えてくる。
「黒霧か。13号は」
「行動不能には出来ましたが、
それはつまり、ヒーロー側に応援を呼ばれてしまうということ。
それはつまり、こちらの圧倒的不利を表す。
どくりどくり、久しい音は一向に治まる気配がない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 83人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
詞葉(プロフ) - 蓮さん» コメントありがとうございます。とても嬉しいです！ 何分遅筆なものでお待たせすると思いますが、是非よろしくお願いします。 (2020年3月12日 12時) (
レス) id: dc1dd40e5c (このIDを非表示/違反報告)
蓮(プロフ) - とても面白いです…！更新楽しみにしてます！ (2020年3月11日 1時) (レス) id: 0d837f5408 (このIDを非表示/違反報告)
詞葉(プロフ) - 桜猫さん» コメントありがとうございます。ちょっと迷走しつつあるので気長にお待ちいただければと思います。いただいたコメントでモチベ上げて頑張りますね！ (2019年9月2日 23時) (レス) id: df44a89d14 (このIDを非表示/違反報告)
桜猫(プロフ) - 夢主ちゃんの今後が気になりますな… (2019年9月2日 17時) (レス) id: b3a762d464 (このIDを非表示/違反報告)
詞葉(プロフ) - ルーさん» コメントありがとうございます。とても嬉しいです！ 仕事の合間にぽちぽちするのでゆっくりになりますが、ハピエン厨なのでそうしたいと思っています。 (2018年2月8日 17時) (レス) id: 703ce966a6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：詞葉 | 作成日時：2017年10月7日 13時
