プロローグ ページ1
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_満月、まだ冬の寒さが残る夜。
「くっそ、ジジィ。ちぃっと金が足んねぇくらいで追い出しやがってよぉ。もう二度とあの店行かねぇわ」
カンカン、と階段をうるさく鳴らしながら坂田銀時は愚痴をこぼす。
下の階のスナックお登勢からは下手な歌謡曲が流れていた。
「んァ?」
銀時は足を止めた。
目に入ったのは"万事屋銀ちゃん"の前に寄りかかる、ひとりの女。
へべれけの銀時は、月に照らされて生白く光る女の脚を見る。
「なァに、姉ちゃん。銀さんになんか用ですか。まさか、出待ちってやつ?俺ってば罪なお…と、
え、お前…」
透き通った黒髪、鮮やかな紫眼、通った鼻筋と淡く色づいた艶っぽい唇。
銀時はそれに見覚えがあった。
女は目線を満月から銀時へ移し、人懐っこい笑みを浮かべた。
「こんばんは、万事屋さん」
「な、なんでこんな所にいんだよ!
…A」
Aは少し目を見開いて安心したように微笑んだ。
「覚えてて、くれたんだ。私のこと。…嬉しい」
その表情を見てか、銀時は眉間にしわ寄せ、唇を噛み締めてAをキツく抱きしめた。
「…悪かった。本当に。もう俺はお前の名を呼べねぇと思ってた…A、あぁ。A」
「謝らないでよ、銀時。あぁ、本当に銀時なんだね…」
スナックお登勢からも灯りが消え、月光だけが静かに二人を照らしていた。
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作者名:ミト | 作成日時:2017年9月17日 17時