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「Aさんお酒強いんですよね、ワイン一緒に飲みましょうか」
佐々木さんは気遣いのつもりなのか、勝手に私の分のアルコールも注文し始める。私だって、そんなに強いわけではない。
また懇親会のようになってしまったらどうしよう、という思いもあったけど、隣の2人の会話を聞く余裕がない私は、お酒の力を頼るほうがいいのかもしれない。
「Aさんも出会い探しているんですか？」
「いや、そういうわけでは…」
「綺麗だし男性に困らないでしょ」
「そんなことないですよ」
気がつけば頬の筋肉がつりそうなくらい、苦笑いをずっとしていた。お酒は何杯か飲んで疲れてきたし、話題も大して盛り上がらない。
取引先となれば気も使うし、途中でこっそり抜けるなんてできっこなかった。
「俺ね、手相占いできるんですよ。ちょっと左手見せてください」
佐々木さんはだいぶ酔ってきていた。寒い言葉を言ったり、スキンシップが増えてきている。
「結婚線は…、俺と一緒でもうすぐですね」
何だか笑えてくるくらい、くだらなかった。
「ちょっとお手洗いに行ってきます」
私は席を外すとトイレに駆け込み、深く息を吐いた。さほど尿意はないのに便座に座る。戻りたくないからだ。
「(帰りたい…)」
とは言っても、いつまでもトイレに篭れるわけでもなく。結局手を洗い、鏡で顔色の悪い自分を見て、またため息をこぼす。
それから意を決して、トイレのドアを開けた。
「A」
トイレの前にいたのは望だった。ついさっきまで楽しそうに愛美ちゃんと喋っていたのに。
「望〜どうしよ〜」
思わず弱音が漏れた。名前を呼ばれ、顔を見ると何でか安心してしまう。不思議だ。
「何で合コンなんか来るねん」
「愛美ちゃんにどうしても来てって言われたから」
「断れよっ」
「だって頼りにされて、舞い上がってしもたから…」
「ほんまあほやな」
望は私を見て困ったように笑った。
「そろそろ抜けよ」
「なんか取引先って考えたら抜けにくいねんな」
私はいつだって用心深くて優柔不断で勇気がない。パッと決めてサッと行動できる望の大胆な性格に憧れる。
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作成日時：2019年2月25日 12時
