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見覚えのある、背の高い全身黒ずくめの男性から本を受け取る

最近人気だっていうエッセイ本と、何やら難しそうな、てかこんなのウチにあったんだって感じの哲学本

お客様のプライバシーに関することだからって、店長にバイトに入って一番最初に注意されたこと

お客様の買う本を記憶しない

ただこの人は割とここの常連でもあって、私も何度か対応したことはあって

いつもこんなの買ってるなってご法度な言葉が頭を過る


「税込み3182円です」

「はーい」


格好に反して、ふわふわとした物腰の人

三白眼気味な瞳に、少し浅黒い肌、スーッと通った鼻筋にどこか中性的な顔立ち

2冊の本が入ったレジ袋を彼に差し出すと、爽やかな笑顔でお礼を言う

とても好印象な彼は、ここではちょっとした有名人だ


彼が去って直ぐ、佐久間さんはレジカウンターに戻ってきた

そのクリクリとした瞳は、何の感情も持たずに去っていった彼の背中を追い掛けている

時々、佐久間さんはこんな表情をする

私はそれを知っていた

だって、私もきっと佐久間さんに似たような視線を向けてるから


私がこのバイトを始めたときから、あの全身黒ずくめさんはここの常連

そんな彼に佐久間さんが向ける視線に気付いたのは割と最近かもしれない

その意味を図ることなんて、野暮な気はする

私だって、あやふやなモノをいくらでも持ち合わせてるから

そしてその意味を図ってしまうなら、彼は限りなくグレーゾーンに立っているから


「佐久間さん…?」


あのお兄さんの背中が消えても、その先が見えているように熱心に見続ける姿

そんな彼に声をかけるのは忍びないけれど、それは自分にとっても苦しいことだから


彼を現実に呼び止めた


佐久間さんはふと瞳に光を灯し、罰が悪そうに笑った

それが、罰だと言うなら、お局様に指摘された私の恋心も惨敗が確定なのだけど


「ごめんごめんっ、そんな怒んないのー」


いつも通りの佐久間さん

いつも通りのように見せるのが上手な佐久間さん


両手でパンっと頬を叩いた彼は、少し紅い頬のままレジのレシート用紙交換を始める

私と余り変わらない背丈の、小さいようで大きいような背中に、

好きですよって

小さい声で呟いてみたけど、やっぱり私の心の中でそれは少しばかり居心地が悪いもので


コロンと飛び出した言葉は誰にも拾われず、足元に転がり落ちていった




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なむる。(プロフ) - 雪の王子様さん» 私が出した全ての作品に、本当に素敵なコメント下さって!!ありがとうございます^_^彼らの素敵な姿を描けたらな…頑張ります! (2020年9月16日 7時) (レス) id: 74f22f9e0f (このIDを非表示/違反報告)
雪の王子様 - さっくんでてきた!なんかすごい展開の予感…更新頑張ってください。 (2020年9月16日 2時) (レス) id: a501c8742d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:なむる。 | 作成日時:2020年8月23日 23時

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