121話 ページ10
，
どうしようもないまま、そしてAも打ち明けることのないまま日が過ぎていく。何とかその気配を取り戻そうと手を尽くすも、ほとんど意味はない。唯一話しているときはマシになるらしく、少ない話題を絞り出して言葉を連ねるばかり。
_______「ここではない場所に、帰りたかった」
アラバスタであいつが語ったことを、今も理解出来ない。
だが、船でのAが言った"帰りたい場所"というのはそのことかもしれないとある日ふと気付いた。
おれやくいな、先生がいたあの島ではない故郷。
旅をしていた期間はAの方が数年長い。第二の故郷のような馴染み深い島というのもあるだろうが、それとはまた違うと直感が語る。
「ゾロくん、ちょっと夜風に当たってくるね」
「あ？待て、俺も行く」
「すぐ戻るから大丈夫だよ」
いつもの微笑を浮かべて、そのまま一人出て行ったA。一つ舌打ちを漏らしながら刀を手に取って、早足に玄関へ向かう。
考えたところで答えは出ない。元より頭を使うのは向いてねェとよく知ってる。その得意な奴が原因であり、頭の回るロビン達もいねェなら八方塞がりもいいところだ。
とにかく今出来ることはあいつを一人にせず、その気配を離さないようにすることくらいだろう。
「っ、あいつ、どこ行きやがった……！」
出たばかりだと油断した。見当たらない背中に焦りを覚え、見聞色を保ちつつ早足に夜闇の中を歩き出す。月明かり以外照らすもののない町。響くのは自分の足音や衣擦れの音だけ。
いつもの思慮深く臆病なAなら家から出ることはもちろん、来客の対応さえ渋ったはずだ。
三歩先すら危うい闇の中から、見慣れたあの背中を探す。
自然と眉間に皺が寄り、眼光が鋭くなっていることも自覚した。
一歩先に進んだなら、何か変わると思っていた。
幼い頃を知る友ではなく、唯一無二の関係になればその胸の内に巣食う何かに触れる権利を得られると。
だが、どれだけ関係が好転しても核となる部分が何も変わらないままだと、進めば進むほど分かってしまうだけだった。
ようやく見つけた横顔とその奥の悪意が目に入った瞬間、夜闇を裂く怒号が飛び出る。
「Aッ！！」
「え？」
目を丸くしてこちらに振り返るAと、その奥で銀色に鈍く光る見慣れた反射光。無防備な背中を一閃しようと振り上げられた刀が落ちる前に、強く地を蹴った。
どんな関係であっても絶えないAの隠し事も、悩む姿も、酷くもどかしく腹が立つのだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1271人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
雅榴(プロフ) - あやさん» 今作で更に好きになれたなら嬉しいです〜！👏 たくさん楽しんで頂けたなら幸いです。こちらこそ読んで頂きありがとうございました！コメントもありがとうございました！ (2022年12月13日 16時) (
レス) id: 7a47bd801a (このIDを非表示/違反報告)
あや(プロフ) - この作品を読ませてもらって本当にドキドキとときめきが止まらなかったです！元々ゾロは好きだったのですがこの作品でもっと好きになりました。素敵な作品をありがとうございました✨これからも頑張ってください応援してます！ (2022年12月13日 9時) (レス) @page49 id: 0f7e0fb150 (このIDを非表示/違反報告)
雅榴(プロフ) - 翠さん» たくさんのお言葉ありがとうございます！とても楽しんで頂けたようでとても嬉しいです！長いし文も多いのに最後まで読んで下さってありがとうございました。時折頂けたコメントも嬉しかったしモチベになりました。コメントありがとうございました！(*´∀｀*) (2022年12月3日 20時) (レス) id: 7a47bd801a (このIDを非表示/違反報告)
雅榴(プロフ) - なな姫さん» ありがとうございます〜！楽しんで頂けたなら何よりです！次回もまたONE PIECEかなと思っているので、その時もまたお付き合い頂けると嬉しいです。コメントありがとうございました〜！ (2022年12月3日 20時) (レス) id: 7a47bd801a (このIDを非表示/違反報告)
翠(プロフ) - 長文、何度ものコメント、失礼いたしました。お体にお気をつけて、過ごしていって下さい。今までも、これからも、応援しています！╰(*´︶`*)╯♡ (2022年12月3日 19時) (レス) @page49 id: eb4de4b192 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
