第83話 ページ5
ただひたすらに、無我夢中で走った。
目撃情報のあった場所へ辿り着くと、辺りには人通りがめっきりない。大方、騒ぎの飛び火を恐れて家に閉じこもっているのだろう。
どう考えたとて今の世では手負いイコール謀反人。手を差し伸べに出て行こうものなら仲間とみなされ即殺されるのがオチというもの。結局は皆、自分の身が大事なのだ。
とはいえ、もしミライがその立場なら間違いなくそうしていただろう。いっその事
道に血痕が残っているのに気づいたミライは先を目で追う。ぽつぽつと蛇行し、土手を下り、そして橋の下を覗き込んで見れば__見つけた。
記憶の中の彼とあまりにも違う、変わり果てた恋人の姿を。
「総悟、総悟ッ! しっかりして!」
ミライは橋下へ駆け下りるなり総悟を抱き起こしてその名を呼ぶ。
「……A? ……はっ、ついに幻覚まで見るようになっちまったか。俺も随分ヤキが回ったもんだ」
「ううん、幻覚じゃないよ。私はここにいるよ」
口調こそ軽いが、全身傷だらけ、口から血を吐いている彼はすでに虫の息。
「近藤さんも失い、土方さんも失い、しまいには自分まで終わってしまうたァ……つくづく神様ってのは辛辣でィ。A、毎年一度くらいは俺の墓参り、来てくれるよな……」
「なに縁起でもないこと言ってんの。総悟はまだ死なないよ……!」
終わりを悟ったような、自嘲じみた笑みを浮かべる総悟にミライは必死で首を横に振る。
しかし、いくら否定したとて頭ではもう解りきっていた。腕の中の彼が赤槍にやられていてもう助かるはずがないことを。それでも、認めたくなかった。
あるかないかの希望さえも、信じたかったから。
「……おめーに渡したいものがある。ずっと持ってたんでィ」
そう言って懐へ手をやると、総悟は極小サイズのルビーが埋め込まれた指輪を取り出した。
「これは?」
「おめェにまた会えた時にと思ってな。こいつは__」
総悟は震える手で指輪を持つと、ミライの左手の薬指に通す。おぼつかない手つき故に、それがぴたりと収まるまでの時間はとても長いものに感じられた。
- 金 運: ★☆☆☆☆
- 恋愛運: ★★★☆☆
- 健康運: ★★★★★
- 全体運: ★★★☆☆
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作者名:yunami☆彡 | 作成日時:2022年5月6日 12時