【第五人格】好きなだけ。【短編集】

全部知ってる 納棺師 ページ5

無題に書きました『何も知らず』と若干お話が繋がっていますので、そちらを先に読んでくださるとより楽しめるかと思います。



全部知ってるよ。
私の為に、というのを建前にして自分自身のためにイソップが色々している事。

あの子もあの子もあの人も。
私に近づかないようにって裏でお話ししてた事。

私を独りにさせて、僕だけは違う、Aを独りになんてさせない。なんて言って自分に依存させようとしてる事。

机の下から二番目の引き出しの中には、荘園に来る前から今までの私の写真が沢山入っている事。

全部全部知ってるよ。
でもそれを咎めたりなんてしない。
私の事を想ってしてくれている事だから。

誰だったかな。
ああそうだ、占い師の人。
以前あの人に何故か弱いふりを続けるのか、と聞かれた事があった。
愚問だ。答えなんて分かりきってるのに。

だって、か弱い女の子(彼が好きな私)でいれば彼は私だけをずっと見て、私だけをずっと愛してくれるじゃない。

私には彼がいればいいし、彼には私がいればいい。

「大丈夫ですよ、僕が、僕だけが、ずーっとAを守りますからね」

今日も抱き締められて、いつもの愛の言葉を囁かれる。
大好きな彼の匂いに包まれる幸せな時間。

この幸せな時間が続くのなら、私は死ぬまでか弱い女の子を演じ続けよう。

彼の匂いが
腕の中の感覚が
男性にしては細い髪の毛が
いつも伏し目がちなところが
少し長めのまつ毛が
薄くも柔らかい唇が
独占欲が強いところが
彼自身が大好きだから。
愛しているから。

彼に死ぬまで愛してもらうためなら何だってしてみせるから。

私の、私だけの王子様。
どうか死ぬまで私に溺れて、私だけを愛し続けていて。

確認　納棺師→←貴方と共に　納棺師

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す