四百三十七通目 ページ38
我々国にとって久方の戦火は、怨恨と血に染まる醜悪な様
騒乱が蠢く最前線では絶えず死者の骸が積み上げられ、血染めの地を戦士が駆け、弾丸の雨が乱雑に降り注ぐ
目もくらむほどに激化した戦線から僅かに離れた森
木々が燃え、硝煙で視界が霞む中
戦時下でありながらもそこは、やけに静謐な空間に見えた
弾痕や刀傷が無数についた高木らの合間、林冠の途切れたギャップから差す陽光に照らされるのは
既に死に絶えた、無数のガヴィル兵の無残な死に様である
悪しき者共が皆武器を取り零し、屍山血河醜く死に腐っている
近場の大木の根本で、息を切らしながら──は木の幹に体を預けていた
その身体は既に極限状態といっても過言ではないほどに、傷を受けて弱り果てている
腹部を尚も貫く刃を抜く力は最早残っておらず、鋭利な剣が身体に穴を開け
銃火器によるものか、その四肢の一部、右の足は千切れてどこぞへ転がっている
いつ死んでもおかしくないような、しかして死ぬに死にきれない地獄の時間の中
蜃気楼故にか意識が遠のいた故にか、かばかりか揺らんで見える地面を睨みながら、──は自身の最後を悟った
彼が率いる小隊は、戦場へ赴いて間もなくして壊滅の道へ進んだ
彼の技量に問題があったわけではない、その才覚はもちろん優秀であろう
しかし、その小隊が未だ結束力に足らないものであったことが一番の致命傷だった
生き残ったのは、彼を含めて数名のみ
馬も失った、逃げる手段と逃亡可能人数は限られていた
仕方がないとは言え、怯えた顔をした隊員たちは一目散に彼を置いていってしまったのである
彼にはまだ、慕われる力が足りなかった
逃げていった部下の背中が目に焼き付いて離れないけれども
「──無事なら、それでええか」
旋風にすらかき消されてしまう程小さくひとりごちると、──は微睡みに抗えなくなったかのように、ゆっくりと瞼をおろす
しかして閉じ切らないその瞼は、最早まばたきすら忘れて、薄く目を開けたまま段々と乾いていくのだった
自身の死期がもう間もなくと迫る中、彼はうわ言のように延々とつぶやく
「生きてくれ、いきてくれ、いきて、生きてくれ、いきてくれ、いきてくれいきてくれ、いきてくれ、いきてくれ」
か細い呼吸、今にも止まりそうな心臓、最早開閉すらできない口で
呪いのような、祈りの言葉を
そんな──へと少しずつ
敵か味方か、息を殺した足音が近づくのにも
──は気が付かないでいた
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アンバ(プロフ) - (みたら士)神様､小説を創ってくれてありがとうございます｡ (2021年5月9日 1時) (
レス) id: 04b4947088 (このIDを非表示/違反報告)
有栖川.(プロフ) - 後輩くん…！個人的にはキャラ揃って大喜びしてます。最近更新多くて通知を見るたびに発叫してます。ですが、無理はなさらないように… (2021年5月9日 1時) (レス) id: 6bc5efe30d (このIDを非表示/違反報告)
シャノ(プロフ) - 最近更新増えて嬉しいです。 彼ですかね、、、！ 更新ありがとうございました！ (2021年5月8日 22時) (レス) id: f15c4b37e0 (このIDを非表示/違反報告)
Contrast(プロフ) - 本当にお話一つ一つが素敵で大好きです！無理のない更新で頑張って下さい！ (2021年5月8日 7時) (レス) id: 8384124a90 (このIDを非表示/違反報告)
アンバ(プロフ) - 本当に大好きすぎる…！読者をどれだけこの作品はびっくりさせてくれるんですか！更新ありがとうございます！！！ (2021年5月8日 4時) (レス) id: 04b4947088 (このIDを非表示/違反報告)
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