四百三十四通目 ページ35
「これ以上は時間の無駄だ、私は早急に前線へ向かう。貴方達は──此度の戦線から離れてくれて構わない」
感情が乱高下するのは、Aらしくもない
落ち着けという自己暗示のように、深く息を吐きながら眉間に寄った皺を伸ばした
ため息まじりに室内を見やり、乱雑に口早に指示を述べるのは、体が早く戦場へ向かおうとしている故の無意識のものだろうか
「私を信じなくても良い。この状況に支障は無いのでな。だが、現総統閣下に戦勝後処理に着手するようにと、匿名の言伝だけは忘れずに行うように。以上」
司令を出し終わろうと、御意の声は上がらない
致し方ないと思いつつ、Aは踵を返して退室すべく足を進めた
だがしかし、頭の片隅に考えが過る
Aに対して最上の忠誠を誓っていた者の姿が
──ベリヌーイ・アルドラム、その人の容貌がどこにも見られない
焦げ茶の髪に金の目を輝かせた、ガヴィルから来た強い味方
彼女ほどの腕前のものが、死して我々国に帰還してしまったとは思い難い
「そうだ……ベリヌーイは、ベリヌーイ・アルドラムは何処へ？」
「ッ……ベリヌーイ指揮官殿は……こんなものは、こんな指揮体制はおかしいといいながら……前線へ、行きました」
「……そうですか。やはり彼女は、とても優秀な指揮官だ」
前線というのは、此度の対ガヴィル戦のことだろう
それはつまるところ彼女が前回戦死しなかったことの証明
矢張り彼女は実力者だ、自身を守る術も知っていたのだろう
それに比べて自分は──
悲観的になった思考を消すように首を振ると、Aは部屋の戸に手をかけた
その直後
「さ、最高指揮官殿ッ！」
後方で知らない声が上がる
目線だけそちらへ向けてみればそこには、未だ経験浅い指揮官らしき者達の姿があった
「……ご武運を」
彼等の左胸に押し当てられた、右の手のひら
指先を伸ばし揃えられたその手を左胸にあてることは、この国においての敬礼を意味する動作だ
──上官や総統に対しての、尊敬も含有する
貴方の意志は、我が胸に
我が心臓は、貴方と共に
そう意味するものだと習ったのは、いつの事だっただろうか
「嗚呼」
──Aが人知れず流したそのひと粒の涙は
暴発したように吐露した幼い感情は
たった数名のみあれど
確かにその心を動かし、士気をあげていた
しかしAは未だ、気がついていなかった
自身の身体が、壊死の予兆を覗かせていることに
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アンバ(プロフ) - (みたら士)神様､小説を創ってくれてありがとうございます｡ (2021年5月9日 1時) (
レス) id: 04b4947088 (このIDを非表示/違反報告)
有栖川.(プロフ) - 後輩くん…！個人的にはキャラ揃って大喜びしてます。最近更新多くて通知を見るたびに発叫してます。ですが、無理はなさらないように… (2021年5月9日 1時) (レス) id: 6bc5efe30d (このIDを非表示/違反報告)
シャノ(プロフ) - 最近更新増えて嬉しいです。 彼ですかね、、、！ 更新ありがとうございました！ (2021年5月8日 22時) (レス) id: f15c4b37e0 (このIDを非表示/違反報告)
Contrast(プロフ) - 本当にお話一つ一つが素敵で大好きです！無理のない更新で頑張って下さい！ (2021年5月8日 7時) (レス) id: 8384124a90 (このIDを非表示/違反報告)
アンバ(プロフ) - 本当に大好きすぎる…！読者をどれだけこの作品はびっくりさせてくれるんですか！更新ありがとうございます！！！ (2021年5月8日 4時) (レス) id: 04b4947088 (このIDを非表示/違反報告)
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