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真衣はフォークで生地に切れ目を入れる。
この固めのケーキなら、フォークは大ぶりでないと歯が立たない。
ざっくりとケーキの下までフォークを突き立て、大きく掬い上げる。
溶けていく生クリームを逃がさないように、慌てて口に押し込んだ。
甘くって、とろっとしていて、少し酸味があって。
とろーり、サクッ、ふわっ。
生地がサクッとした時に粉砂糖が口の中でほどけ、特に甘くなる。
「・・・夢みたい」
真衣の言葉に、玄師は調理台に手を突きながらホッと溜息を吐いた。
真衣は玄師を見上げる。
白い服を着た人。
いつも私に美味しいものを差し出してくれる人。
「私、今この時のことを、ずっと夢に見ていたのかもしれません」
玄師は真衣の視線から目を逸らし、苦い何かを噛み締めたような表情になる。
「ここでーーこのお店で、玄師さんの作ってくれるお菓子を食べることが、小さい頃からの夢だったんです。
・・・玄師さん」
真衣は強い視線で玄師の視線をとらえた。
「オリジナルのお菓子を作りましょう」
玄師は躊躇して、調理台に置いた自分の拳を見つめた。
「さっき食べた3つのケーキ、どれも美味しかったです」
「・・・あんなの、既存のケーキを小手先で変えただけさ」
「だったら」
真衣は立ち上がり、玄師の顔を覗き込む。
「作りましょう。
世界のどこにもない、貴方だけのお菓子を」
玄師は大きく目を見開き、真衣を見つめる。
その言葉は昔のことを思い出させた。
『作ろう、玄師。
世界のどこにもない、私たちだけのお菓子を』
そう言った彼女の言葉が、真衣の言葉と相まって、玄師の中に沈んでいった。
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作者名：井原 x他1人 | 作成日時：2020年6月14日 11時
