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「でも、もう少しヒントが欲しい。
小さい頃のおやつはどんなのだった?」
真衣は人差し指を頬につけて首を傾げる。
「うちは殆ど母の手作りでした。
ホットケーキとかドーナツとか、粉物が多かったです。
あとはアイスキャンディ」
「それも手作り?」
「はい。
ミカンとかリンゴのジュースを凍らせてたんです。
夏の暑い日は美味しかったなあ」
ふんふんと頷きながら、玄師はノートに文字を書き込む。
「それじゃ、今までに食べた中でそのお菓子と1番似ていた物ってあるかな」
腕組みした真衣がぼそりと呟く。
「・・・クレームブリュレです。
クレームブリュレは、夢のあの味にそっくりな気がします」
「なるほど。
けれど『そっくり』なだけで、同じ味ではないんだね。
それを作っても、真衣さんの夢の味そのものではない」
「そう・・・だと思います、多分」
「クレームブリュレに酸味はないしね。
よし、それじゃあ作ってみよう」
「え!
もう作れるんですか?」
「色々試して食べてみるしかないでしょう。
いくつか試作しますよ」
店の方でカランカランとドアベルが鳴り、真衣は急いで対応に出る。
玄師はエプロンの紐を結び直し、調理に取り掛かった。
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客が途切れず次々に来て、閉店間際にはショーケースの中がほぼ空になっていた。
早めの時間に店を閉めていると、店内に甘い匂いが漂ってきた。
真衣は店仕舞いを終えてシャッターを下ろし、厨房に入っていく。
中では玄師が忙しく立ち働いていた。
「真衣さん、いくつかできていますよ」
玄師は既に調理台の上に3つのケーキを乗せていた。
オーブンからはバターたっぷりの生地が焼ける香ばしい匂いがする。
並んだケーキはそれぞれオレンジ、黄色、茶色のクリームでデコレーションされ、中に何が入っているのかは分からない。
「さあ真衣さん。
どれからでも召し上がって下さい」
玄師から大ぶりのフォークを手渡され、真衣はオレンジのケーキを選んだ。
フォークで1片を削り取る。
断面は3層になっていた。
外周を覆う爽やかな酸味の果肉入りオレンジクリーム、中には真っ白なミルクババロア、下には薄く伸ばしたタルト生地。
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作者名:井原 x他1人 | 作成日時:2020年6月14日 11時