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玄師は顔を上げ、無表情のままカレンダーに目をやった。




「もう12月も中旬か」




真衣は束になった予約票を玄師に手渡す。




「こんなに沢山のお客様が、玄師さんのお菓子を待っています。
作ってくれませんか?
玄師さんのお菓子を待っている人のために」




玄師は、レシピノートと予約票を見比べた。



予約票に並んでいる名前は、今まで玄師が試行錯誤して予約に応えた人たちだ。



桃カステラのお父さん、サバランの奥さん、ワサビケーキの旦那さん、ポテトチップを自作した親子。



その他にも玄師が懸命に考え、幸せを願った人たちの名前が並んでいた。



「・・・そうだ。
どこにもないお菓子を作ることだけが、俺の仕事じゃない。
俺のお菓子を楽しみにしている人に満足してもらうのも、今、俺がすべき仕事だよね」




玄師はレシピノートを閉じて立ち上がった。




「真衣さん。
12月24日と25日は、予約のお客様だけ承ります。
貼り紙しておいて」



「はい」



「小麦粉を使わないケーキは、アレルギーの方だよね。
その分は調理器具を新調する」



「はい」



「・・・それから、ケーキ用のイチゴは、件の苺農家さんに頼もうと思います。
取りに伺おうと思うのですが・・・」




青白くなるほど緊張している玄師に、真衣は落ち着いた微笑みを見せる。



玄師が美菜子と向かっていた苺農家だ。




「真衣さん、一緒に行ってくれますか?」



「はい!」




真衣はとびきりの笑顔で答え、玄師は心から滲み出たような深い溜息を吐いて微笑んだ。



久しぶりに見る玄師の笑顔に、真衣は満足して大きく頷く。




「あれ?
でも玄師さん」



「なんですか」



「うち、車ないですよね。
どうやって山の上の農園まで行くんですか」



「徒歩で行きます」




玄師はにっこり笑って答える。




「松丘農園まで何キロあると思ってるんですか!」



「嘘です。
車は新しく買ったんです。
俺も逃げ続けるわけにはいかないし」




玄師に連れられて行った店の裏のガレージには、真新しいバンが停まっていた。



車体の横に大きく店名が書いてある。




「凄い!
うちの店の車ですね」



「そう。
これで今までよりも遠くまで配達に行けます」

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作者名:井原 x他1人 | 作成日時:2020年6月14日 11時

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