118話 ページ40
・降谷視点
本当は、Aが帰ってくる2年後に言うつもりだった。
けれどもいざ別れの時となると、言いようのない不安が胸の中を締め付けて苦しくなる。
それに、もし、向こうで男に言い寄られたりなんかしたらどうしようと、嫌でも考えてしまった。
……俺の目が届かない、日本の外へと2年は行ってしまうのだから。
ガラス一枚隔てて、電話するのには、自分でも引き止めてしまうだろうと言うのは分かっていたからだ。
人目を気にせずに、抱きしめてしまう自信だってあった。………それくらいには、こいつをFBIなんかにやりたくなかったし、離したくなかったのだ。
今更だと思う。けれどいざ目の当たりにすると、人間ってこういうものだと思う。
自分でも泣きそうなくらい情けなくなった。
けれど今言わなかったら、絶対に一生後悔すると思ったから。
(ああ、でも、これで俺の想いを否定されたら、怖い、なぁ)
任務なんかで女を口説いてきたこともあれば、近付く手段として、ハニートラップをした事はあっても、本当に好きな女に対しては、こうも弱気になるのだから恋というものは恐ろしい。
何か言ってくれ、罵倒でも、返事でも、何でもいい。
何でもいいから、────お願いだから。
「……何で泣いてるんだよ、A」
はたはたとAは涙を流していた。
嫌だったか、といえば違う、と首を振った。
それでも止まりそうにないその涙を拭ってやりたいのに、このガラス一枚に隔てられて、どうもしてやれないのが悔しくて。
『っ、ずるいだろう、降谷。未練がましくなるから、離れたくなくなるから──私が、意気地なしだから一度言えなかったのに、なんで、どうして、』
「……A」
『なんでこのタイミングで言うんだ。離れたくなくなるじゃないか。』
ごしごしと痛そうなくらい、手で涙を拭う。
拭ったせいなのか、泣いたせいなのかは分からないが、泣き腫らした目は赤くなっていて、少し痛々しかった。
『私だって離れたくない。気付くのにだいぶ遅れたけれど、遅れてしまったからこそ、言うのは2年後にしようと決めたのに。』
ばか、ばか、と何回も言われる。子供の八つ当たりみたいで、こんなAは初めて見たものだから、新鮮だった。
今度は、泣いていた顔は情けなく綻びる。
泣きそうだけれど笑っていた。歪だけれどそれは確かに笑顔そのもので、困ったように、けれどどこか嬉しそうにAは笑うのだ。
「───はい。私も、ずっとずっと好きでした」
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るか(プロフ) - 続編と番外編が気になりすぎてて夜も寝れないくらい気になってます!!パスワードを教えていただきたいのですが可能でしょうか、? (8時間前) (レス) id: 50222dda5e (このIDを非表示/違反報告)
ちゅん(プロフ) - 続編と番外編が読みたいのですが、パスワードって教えていただけないのでしょうか? (2022年4月22日 15時) (レス) id: 1fdd2ab3eb (このIDを非表示/違反報告)
あいる - 初めまして!!こんな神作初めて出会いました。ほんとにほんとに素敵です。お気に入り作者にしてしまいました。パスワードのヒントと作品にてオススメという形で載せたいのですがダメでしょうか?? (2020年11月14日 23時) (レス) id: 23cef4f251 (このIDを非表示/違反報告)
眠猫 - 番外編のパスワード載ってないので教えてくれないでしょうか?作者作品一覧に載ってるのは違う番外編のパスワードのようなので……… (2019年1月28日 18時) (レス) id: b6571f87b9 (このIDを非表示/違反報告)
神無月(プロフ) - 作者の作品一覧の所にパスワードというか、ヒントが載ってますよ (2018年4月22日 19時) (レス) id: 7b5ab892e2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:遥 | 作成日時:2017年12月16日 21時