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117話 ページ39

そろそろフライトの時間ということもあって、秀一さんは先に飛行機に乗っていると言い残して、先に行ってしまった。
私はと言えば、一通り挨拶を終えて、秀一さんと同じく後は飛行機に乗るだけだ。
搭乗手続きを終え、同期や友人や部下たちは、最早ガラス一枚の向こう側。だが、先程降谷に『電話をしたい』と言われたのだ。

……電話といっても、携帯電話でするような電話ではない。
見送る側と、搭乗準備をした人間が、ガラス越しに電話が出来る、一般的にはインターホンと呼ばれるもの。
それぞれに設置されている電話を手に取れば、降谷も電話を手にとって耳に当てた。

「……なんだ、何か言い残したことでもあったの」

『言い残したことと言うか、こうでもしないと、きっと俺は引き止めかねないだろうと思ってな』

「?」

降谷の意図がわからなくて、首をかしげる。
一体何のことなのだと問いかけようとした時、『まるで呪いのような運命だと思った』と口にした。

『今思えば、俺はどうしようもないほど不器用で子供だったし、傷付けておいて俺と同じ気持ちを持ってくれていたらなんて、傲慢な思いを持っている。』

「………」

『愛も憎悪も何もかも混ぜこぜで、何も分からなくて、その度にお前を傷付けた。
……憎まれても仕方ないことだってしてきた。なのに、お前は俺を一度も突き放したことなんてなかったな』

「降谷、何を、」

『………離れたくない』

呼吸が止まる。
存外、弱々しいそれは、受話器越しでもなんだか泣きそうな感じがして、降谷の顔が見れなかった。

『今更だってわかってる。けれど、離れたくない。……受話器越しに言わなきゃ、きっと俺はお前を引き止めてしまう。
…抱きしめてしまう。そんなのは、お前の足を引っ張るのは嫌なんだ』

「…、っ」

『こんな時でしか、言えない意気地なしでごめん。
けれど、今じゃなきゃ、いつ言えるかもう分からなかったから。』

そんなの、私だって。
私だってどれほど。言いかけた言葉は喉で引っかかって止まった。
だめだ。言えない。この想いだけは。伝えてしまいたい。けれど、だめなんだ。

『お前が帰ってきた時に言おうと思っていた。
……けれどもう無理だ。本当にごめん。きっと今言わなきゃ、俺は一生後悔すると思ったから。』

今にも泣きそうな降谷の声が、脳髄に染み込む。
私も何故だか泣きそうになった。




『……ずっとずっと、好きだった。好きだったんだよ、A』

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ちゅん(プロフ) - 続編と番外編が読みたいのですが、パスワードって教えていただけないのでしょうか? (2022年4月22日 15時) (レス) id: 1fdd2ab3eb (このIDを非表示/違反報告)
あいる - 初めまして!!こんな神作初めて出会いました。ほんとにほんとに素敵です。お気に入り作者にしてしまいました。パスワードのヒントと作品にてオススメという形で載せたいのですがダメでしょうか?? (2020年11月14日 23時) (レス) id: 23cef4f251 (このIDを非表示/違反報告)
眠猫 - 番外編のパスワード載ってないので教えてくれないでしょうか?作者作品一覧に載ってるのは違う番外編のパスワードのようなので……… (2019年1月28日 18時) (レス) id: b6571f87b9 (このIDを非表示/違反報告)
神無月(プロフ) - 作者の作品一覧の所にパスワードというか、ヒントが載ってますよ (2018年4月22日 19時) (レス) id: 7b5ab892e2 (このIDを非表示/違反報告)
夢雪 - 番外編を読みたいのですが、パスワードがわかりません。どうすれば?…… (2018年4月21日 21時) (レス) id: a2e26e90a4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2017年12月16日 21時

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